覚え書:「書評:それでも猫は出かけていく ハルノ 宵子 著」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。

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それでも猫は出かけていく ハルノ 宵子 著

2014年6月22日


◆死に際まで自由求め
[評者]稲葉真弓=小説家
 著者は、父が詩人で思想家の吉本隆明、妹が作家のよしもとばなな。まず本書に登場する猫たちを図解した「吉本家の猫相関図」に呆然(ぼうぜん)としてしまう。キャラクターの描き分け描写も見事だが、五十匹を超える猫の絵を眺めていると、彼らに費やされた膨大な人間力のすごさに頭が下がる。どれも半端な猫じゃないのだ。障害のある猫がいるかと思えば、エイズを抱えた猫も少なくない。思想家の愛猫のフランシス子はカラスにずたずたにされて大手術をうけ、生き延びた強者。みんな満身創痍(まんしんそうい)の超個性的猫ばかりだ。
 そもそも本書の執筆は、アクアマリンのようなブルーアイ、目頭に朱のラインの入った美猫中の美猫、シロミを拾ったことがきっかけだったという。たぶん事故だろう。尾の付け根の脊髄を損傷、おしっこもウンチも垂れ流しのまま捨てられていたのを拾い、以後は壮絶な介護生活。本書はこのシロミとの日々を主軸とした吉本家の八年間の記録だ。短命のまま死んでいく猫たちを保護し、看取(みと)ろうとする著者は、さながら野戦病院の看護師のよう。切迫感は隅々に漂っているが、死の間際まで自由であろうとする猫たちの姿は、崇高としかいいようがない。
 読後、野にある無数の命に対する畏怖がこみあげてきた。生き延びることの尊さ。それを助けることの難しさ。本書の猫たちよ、どうか生き延びてほしい!
  (幻冬舎・1620円)
 はるの・よいこ 1957年生まれ。漫画家。著書『虹の王国』『開店休業』など。
◆もう1冊 
 『猫は神さまの贈り物』小説編・エッセイ編(実業之日本社)。森茉莉柳田国男らの猫に関する小説や文章の選集。 
    −−「書評:それでも猫は出かけていく ハルノ 宵子 著」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。

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それでも猫は出かけていく
ハルノ 宵子
幻冬舎
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