覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 急務は『集団的育児権』だ=宮武剛」、『毎日新聞』2014年06月25日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障
急務は「集団的育児権」だ
公的年金制度を維持するには

宮武剛 目白大大学院客員教授

 100年先は「神のみぞ知る世界」だが、年金制度は、その未来の展望を義務付けられる。ただし、5年ごとに「財政検証」を繰り返しながら制度の持続可能性を探る。
 今月公表された財政検証では、先行きの給付水準が焦点になった。既に負担(保険料)の上限が定められ、老齢基礎年金の国庫負担も限度いっぱいの2分の1に引き上げられたからだ。
 大幅な収入の伸びはなくなり、支出を切り詰めるほかない。このため「マクロ経済スライド」と呼ぶ手法で給付水準の伸びを抑えていく。給付水準は「所得代替率」で示される。現役世代の平均手取り額と比べ年金額はどの程度の割合になるか。
 今回は人口変動、経済成長、労働力率などの条件で8通りが試算された。そのうち、いわば標準的なケースで、厚生年金のモデル年金は将来も現役男性の平均手取り額(賞与込み)の50%強の支給が可能とされた(夫は平均的収入で40年加入、妻は専業主婦、現在は62・7%)。
 この給付水準に関心が集中するのは無理もない。だが、100年先を眺める視野もほしい。
 標準的なケースで、年金の被保険者は現在の約6640万人から2060年度で3900万人、2110年度で1880万人へ激減する見通し。財政は縮小均衡で持続しても、社会自体が成り立つのか。
 国家、地方公務員の共済組合は来秋には厚生年金へ統合されるが、加入者の推移は内訳で分かる。両組合で約380万人から60年度260万人、2110年度で140万人に落ち込む。
 総人口に占める現在の公務員の人数割合を機械的に当てはめた推移だが、自衛隊も警察も学校も消滅しそうな未来である。
 しかも、この標準的なケースでさえ、女性や高齢者の「労働市場参加が進む」想定である。
 30歳代の女性では働く意欲はあっても出産・育児のため労働力率は70パーセントを割り込むが、30年度には85%へ引き上げる。男性も60歳代前半で91%、60歳代後半も67パーセントを目指す。
 何よりも「子どもを産みたい」「子育ては楽しい」と思える環境・条件を整えるほかない。
 保育や学童保育の飛躍的な拡充から教育費の軽減や公営住宅の確保、若い世代の賃金増や長時間労働の是正、特に非正規労働者の待遇改善が不可欠だ。
 検証結果は、老後の所得保障だけでなく、子や孫が生きる時代を切り開く「国家100年の計」の基礎データである。
 自衛隊員の確保も難しい未来を横目に、「集団的自衛権」の論議を聞くのはむなしい。急ぐべきは社会全体で子育てを支える、いわば“集団的育児権”の確立ではないか。

マクロ経済スライド 少子化による支え手の減少と長命化に伴う受給期間の伸びへの対処策。従来は賃金、物価の上昇分を年金額に上乗せしたが、1・1%分を差し引く(前回検証では0・9%分)。例えば物価が2%上がっても、今の受給者の年金額は0・9%分しか増額されない。ただし、デフレ経済下で一度も実施されていない。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 急務は『集団的育児権』だ=宮武剛」、『毎日新聞』2014年06月25日(水)付。

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