覚え書:「人を支える一滴一滴 『水のなまえ』 詩人 高橋 順子さん(69)」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。

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人を支える一滴一滴 『水のなまえ』 詩人 高橋 順子さん(69)

2014年6月22日


 水の星・地球の中でも日本は最も水に恵まれた地域の一つだ。本書は、その水の国の人びとが水とどのように関わって暮らしてきたのかを、伝承・古典から現代の詩歌まで幅広く作品を紹介しながら考察したエッセイ集である。
 著者の高橋順子さんには『雨の名前』『風の名前』など、写真家の佐藤秀明さんとの共著のシリーズが四冊ある。今回は写真がなく、詩人ひとりの感性で「もう一滴も出ない」というまで水に心を集中させて書き上げた。「このテーマを書きたいと思うと、気の済むまで考えることができた。ひとりの人間がこの年まで水とつき合ってきて分かったことの集大成ですね」と満足そうに話す。
 季節の水、水のオノマトペ、水の神、などに続いて「末期の水」という項がある。広島で被爆した原民喜の詩「水ヲ下サイ」や、<その老婆は/生まれた家の水を欲しがった/およめさんが汽車にのって/一しょうびんをさげて汲(く)んできた>で始まる寺門仁の詩「唇」を読むと、人は産湯から死に水まで、水に支えられて生きるのだとあらためて気づかされる。
 短詩型では、「へうへうとして水を味ふ」「濁れる水の流れつつ澄む」など山頭火の句が印象的。利根川のみなかみ(源流)をたずねた若山牧水については、<「みなかみ」とは何だろう。それはとてつもないエネルギーを秘めて、喜ばしげに地上に誕生する水の現場である。牧水はゆえ知らぬ寂しさを吹き飛ばしてくれる、いのちの歓(よろこ)びにめぐり会ったのだった>と歌人の思いに同化したような筆致で書いている。
 「水が流れるように放浪した山頭火は、まさに水の人だと思う。牧水も旅の人で、旅の人には水がついてくるのでしょうか」
 千葉県飯岡町(現旭市)の海辺で生まれ育った高橋さんも水の人だ。第一詩集の名は『海まで』、一九九七年には『時の雨』で読売文学賞を受賞している。しかし故郷の町は東日本大震災津波に襲われ、生家も一階が水に浸(つか)った。現在九十七歳と九十二歳の両親は避難所にいて無事だったが、その後詩の書けない時期が続いたという。
 「海への憧れと恐怖に引き裂かれていたのです。それが三年たって、ようやく海と向き合うことができるようになりました」。七月に五年ぶりの新詩集『海へ』を刊行する。
 白水社・二〇五二円。 (後藤喜一) 
    −−「人を支える一滴一滴 『水のなまえ』 詩人 高橋 順子さん(69)」、『東京新聞』2014年06月22日(日)付。

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