覚え書:「書評:アメリカ的、イギリス的 テリー・イーグルトン 著」、『東京新聞』2014年07月06日(日)付。


2


        • -

 
アメリカ的、イギリス的 テリー・イーグルトン 著 

2014年7月6日


◆歯に衣着せぬ文化論
[評者]宇波彰=評論家
 テリー・イーグルトンはイギリスの著名な批評家であり、その著作の多くが邦訳されている。原書のサブタイトルは「ある英国人のアメリカ観」であるが、本書には、著者のアメリカについての意見だけではなく、イギリス、アイルランドについての考察も含まれている。
 イーグルトンはその「毒舌」で有名であり、たとえば「年配のアメリカ人男性の散歩する姿は、トカゲの集団の外出」だと揶揄(やゆ)され、イーグルトンの名を知らないひとは、「私の名前を聞いたこともない哀れな少数派」とからかわれる。難解なアイルランド語を学ぶためには「脳外科手術が必要」とされる。
 またイーグルトンは、アメリカの新聞のコラムを検討して「アメリカでは文字文化が衰退しつつある」と断言するが、しかしイギリスの演劇も「消滅しそうな状況にある」と批判する。一方で、ディケンズヘンリー・ジェイムズトックヴィルといった作家たちがかつてアメリカについて語ったことが、今日でも十分に有効であることを説いている。
 もちろん、アメリカ英語とイギリス英語の違いも論じられるが、それは訳者たちの親切な訳注なしでは理解不可能であろう。批評的精神が溌剌(はつらつ)と躍動している悪口・皮肉・冗談・風刺を通して、著者の現代文化批判と比較文化論が浮き彫りにされる好著である。
大橋洋一ほか訳、河出ブックス・1728円)
 Terry Eagleton 1943年生まれ。批評家。著書『文学とは何か』など。
◆もう1冊 
 C・ジョイス著『「アメリカ社会」入門』(谷岡健彦訳・NHK生活人新書)。英国人が米国社会の性格と謎を描く。
    −−「書評:アメリカ的、イギリス的 テリー・イーグルトン 著」、『東京新聞』2014年07月06日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014070602000169.html





Resize1546


アメリカ的、イギリス的 (河出ブックス)
テリー イーグルトン
河出書房新社
売り上げランキング: 12,564