覚え書:「今週の本棚・新刊:『泥だらけのカルテ』=柳原三佳・著」、『毎日新聞』2014年07月20日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『泥だらけのカルテ』=柳原三佳・著
毎日新聞 2014年07月20日 東京朝刊

 (講談社・1296円)

 本書のテーマは、副題の「家族のもとに遺体を帰しつづける歯科医が見たものは?」に凝縮している。

 2011年3月11日の東日本大震災で、600人近くが死亡、行方不明になった岩手県釜石市鵜住居(うのすまい)地区。歯科医・佐々木憲一郎さんは自身の医院が被災し、医療機器が使用できなくなった。それでも地元にとどまり、被災から3カ月後に治療を再開した。

 遺体が次々と収容されたが、身元は簡単には分からない。そのまま火葬されたら、遺族たちは最後の別れをする機会さえ奪われてしまう。歯のカルテがあれば、遺体安置所で照合作業ができ、身元が分かるかもしれない−−。佐々木医師は、スタッフとともに医院から4000人分以上のカルテを救い出した。余震が続いていた。電気もガスも水道も不通。そんな状況下でカルテを洗った。それが奏功し、生前から変わり果て、遺族がいったんは「母ではない」とした遺体が遺族の元に還った。

 小学校上級以上向けの児童書である。しかし、人が死ぬということ、そして「職業倫理」について考える上で、大人も十二分に学ぶことができる一冊だ。(栗)
    −−「今週の本棚・新刊:『泥だらけのカルテ』=柳原三佳・著」、『毎日新聞』2014年07月20日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140720ddm015070021000c.html





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