覚え書:「書評:現代アート経済学 宮津 大輔 著」、『東京新聞』2014年07月20日(日)付。

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現代アート経済学 宮津 大輔 著

2014年7月20日


◆効率化に揺らぐ芸術
[評者]藤田一人=美術ジャーナリスト
 もはやゴッホのような芸術神話は成立しない。そう本書は主張する。なぜなら今日の芸術に求められているのは、孤高なる芸術家の才能にも増して、アカデミズムやジャーナリズム等の社会的権威に裏打ちされた政治的影響力であり、国際化する市場での経済価値であるからだ。
 勿論(もちろん)、ゴッホ神話も、その例外ではない。没後、遺族が作品を維持し、友人が書簡集等で画家の情熱的精神を世に問うなかで徐々に評価が高まり、神話が形成され、経済効果ももたらした。しかし今日では、そうしたボトムアップ的展開はまどろっこしいのだろう。そこで、芸術神話も現実的かつ効率的に、政治力、経済力を可能性の高い芸術家に傾けて、トップダウンで作り上げようというのだ。
 著者は日本人現代美術コレクターとして、そんな現状を概略する。ポイントは経済主導。美術と経済との深い結び付きは、古来変わりはない。ただ、従来の美術と経済、美術家とパトロン、コレクターとの関係は、私的、趣味的なものだったが、昨今、社会的、経済的機能が強調される。「アートの産業化」なる言葉がそれを象徴する。しかし、そこで論じられるのは、大きな数字としての経済。巷(ちまた)の小さな経済は無視される。
 それはグローバル経済下の宿命であるが、良くも悪くも現代の芸術状況は揺らいでいるというわけだ。
光文社新書・864円)
 みやつ・だいすけ 1963年生まれ。アート・コレクター。
◆もう1冊 
 村上隆著『芸術起業論』(幻冬舎)。世界的な活動を続ける現代美術家が、体験を踏まえて芸術による起業を解説。
    −−「書評:現代アート経済学 宮津 大輔 著」、『東京新聞』2014年07月20日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014072002000172.html





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宮津 大輔
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