覚え書:「今週の本棚・新刊:『映画の奈落 北陸代理戦争事件』=伊藤彰彦・著」、『毎日新聞』2014年07月27日(日)付。

2


        • -

 
今週の本棚・新刊:『映画の奈落 北陸代理戦争事件』=伊藤彰彦・著
毎日新聞 2014年07月27日 東京朝刊

 (国書刊行会・2592円)

 「北陸の帝王」こと川内組組長、川内弘をモデルにした東映映画「北陸代理戦争」(深作欣二監督、松方弘樹主演)。公開約1カ月半の1977年4月、福井県三国町(現坂井市)の喫茶店を舞台に、作中の襲撃シーンさながらに川内組長が射殺された「三国事件」とともに語り継がれている。本書は脚本家、高田宏治と川内組長の出会い、完成までの曲折、現実の事件へ変容していく様を、高田ら関係者への取材と脚本資料をもとに検証、やくざ映画史にそびえる名峰の裏側を描く。

 製作現場の熱気がムンムンと伝わってくる。「仁義なき戦い」で有名な先輩脚本家、笠原和夫へ向けられた高田の強烈なライバル心、舎弟・川内組長を破門にした「ボンノ」こと菅谷政雄組長の映画への怒り、そして周到な暗殺計画−−赤黒いマグマが映画を中心に渦巻く。今、「コンプライアンス」を金科玉条に掲げる映画会社には、こんな強烈な作品は撮れないだろう。「奈落に堕(お)ちる覚悟でつくらなければ、観客はついて来えへん、奈落の淵(ふち)に足をかけた映画だけが現実社会の常識や道義を吹っ飛ばすんや」。高田の心意気が胸に突き刺さる。(広)
    −−「今週の本棚・新刊:『映画の奈落 北陸代理戦争事件』=伊藤彰彦・著」、『毎日新聞』2014年07月27日(日)付。

        • -



http://mainichi.jp/shimen/news/20140727ddm015070041000c.html





Resize1702