覚え書:「書評:街場の共同体論 内田 樹 著」、『東京新聞』2014年07月27日(日)付。


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街場の共同体論 内田 樹 著

2014年7月27日
 
◆効率化が招く生きづらさ
[評者]永江朗フリーライター
 「月刊内田樹(?)」と言いたくなるほど毎月のように新刊が出る内田樹であるが、本書は近年、著者が書いてきたことや言ってきたことの総まとめ的な本だ。家族論や教育論、コミュニケーション論、師弟論など、話題は多方面に広がる。共通項は「人と人との結びつき」。内田樹入門としても最適な一冊である。
 読んでいて深く納得し、「これは問題だなあ」と思ったのは、ぼくたちがいろんな場面で消費者化しているという指摘だ。たとえば「『コンビニの店員』化する教師たち」という刺激的な言葉が出てくる。教師批判でもなければ、コンビニの店員をばかにしているわけでもない。学校は教育商品、教育サービスを売る店舗のようなものになり、子供たちは消費者マインドを内面化してしまった、と内田は言う。
 消費者にとって、もっとも賢い行為とはどういうものか。それは最小の投資によって、最大の効果を得ることだろう。安くてよい品物を買う。では消費者気分の子供たちは学校でどうするか。最小の学習によって、最大の成績を得ようとする。できるだけ学習しないこと、努力しないことが、賢い生き方になってしまうという逆説。
 そんなばかな、と笑ってしまいそうになるが、よく考えると、同じようなことはぼくたちの身のまわりにいくらでもある。効果に結びつかない行為を無駄、ときにはリスクと捉えて回避する。たとえば道ばたに空き缶が落ちている。拾ってゴミ箱に捨てるか、それとも無視するか。無視するのが賢い消費者としてのふるまいだとする時代の気分が、回りまわって環境を悪化させ、ぼくら自身を生きづらくしている。
 なにごとにつけ「効率化だ」「スピードだ」と言われてきたけれど、それによって失ったものは大きい。共同体はずいぶんと損なわれてしまった。では、どうしたら修復できるのか。それは一人ひとりが空き缶を拾ってゴミ箱に捨てることから始めるしかない。
潮出版社・1296円)
 うちだ・たつる 1950年生まれ。評論家・武道家。著書『日本辺境論』など。
◆もう1冊
 橋本治著『その未来はどうなの?』(集英社新書)。社会・民主主義・結婚・出版など複雑化する現代の諸問題を考える糸口を提供。
    −−「書評:街場の共同体論 内田 樹 著」、『東京新聞』2014年07月27日(日)付。

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