覚え書:「書評:ウナギと日本人 筒井 功 著」、『東京新聞』2014年08月03日(日)付。

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ウナギと日本人 筒井 功 著

2014年8月3日
 
◆なじみ深さと不可思議さ
[評者]春名徹=ノンフィクション作家
 ウナギは日本人にはなじみ深い生き物だが、判(わか)らないことが多すぎる。日本で成熟したウナギは産卵のために南海に帰っていくが、経路はまったく不明、半年ほどかかってグアム島の西方四〇〇キロあまりの狭い海域に集まり、五月から十月にかけて、新月の前に数回にわたって産卵する。
 柳の葉のような形の透明な前期仔魚(しぎょ)(レプトセファルス)は海流に乗って日本、台湾、中国などの近海にたどり着く。ここで普通の魚に近い後期仔魚となる。いわゆるシラスウナギである。それが川を遡(さかのぼ)って成魚になるのだが、最近の研究ではむしろ一生を海で暮らすものの数の方が多いらしい。
 もともと日本人は天然もののウナギを捕(とら)えて食べていた。明治になってから養殖が試みられるが、当初はクロコ(子ウナギ)からで、シラスからの養殖が事業化されたのは大正の末年、愛知県でのこと。いまでも海岸に集まるシラスを採集して養殖するという基本は変わらない。完全養殖の技術は実験施設では完成したとされるが、実用化にはまだまだコストが高すぎる。
 シラスの数には変動があり、捕獲数で値段が高下するので、捕獲業はいくらか投機的である。過去二年間、シラスが激減、ウナギの値段を吊(つ)り上げたが、今年はまたシラスが増加、値段も下がったという。
 しかし密漁、密輸入が多いため統計があてにならないウナギの世界で、ニホンウナギ国際自然保護連合絶滅危惧種に指名されたことでもわかるように確実に減少している。捕りすぎ、河川沿岸環境の悪化、海洋環境の変化がおもな原因だとされる。しかし決定的な対策らしきものはない。
 著者は高知市生まれでウナギについては経験豊富、発言には説得力がある。ウナギを食べぬ信仰を持つ地域、川漁で生活する非定住民などの民俗学的アプローチは著者の本領発揮で、この不可思議な生き物の魅力をよく引き出している。楽しく読んだ。
河出書房新社・1728円)
 つつい・いさお 1944年生まれ。民俗研究者。著書『サンカの起源』など。
◆もう1冊 
 井田徹治著『ウナギ−地球環境を語る魚』(岩波新書)。ウナギの生態や減少の理由、ウナギビジネスの実態をジャーナリストが調査。
    −−「書評:ウナギと日本人 筒井 功 著」、『東京新聞』2014年08月03日(日)付。

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