覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 分担推進が喫緊の課題=本田宏」、『毎日新聞』2014年08月06日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障

分担推進が喫緊の課題
医師業務代行する職種検討

本田宏武 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐

 米国で医療を受けた知人から、日本の病院にはいない医師の業務を補助する助手(フィジシャンアシスタント)が、とても丁寧な説明をしてくれたと聞いた。それだけではない。外科系では、病棟回診や検査の実施、手術の説明や患者同意書の作成もこの助手が担う。手術にも助手として参加し、術後は集中治療室や病棟で患者の管理、スタッフの教育、そのうえ研究活動に従事するなど、多岐にわたって医師をサポートする。
 米国は、日本ほど高齢化が深刻になっていないうえ、人口当たりの医師数は多い。それでも医師不足の地域があり、1960年代から医師を支援する職業が導入された。2008年時点で、医師の業務を補助する助手は8万人、医師に代わって一定の診療ができる特定看護師(ナースプラクティショナー)が16万人と、計24万人が活躍する。
 今年6月に成立した「地域医療・介護確保法」は、国が目指す病床の削減や平均在院日数の短縮に従わない医療機関にペナルティーを科す方向性が問題視されている。さらに訪問・通所介護自治体に移管され、必要な専門介護が受けられなくなる懸念も拭いきれない。
 私もこの法律には一貫して反対の立場だが、法律の付帯決議に一条の光を発見した。医療提供体制の項目に「チーム医療推進を含めた医療提供体制の抜本的改革の推進に努める」と記載され、「医師や歯科医師の指示の下、診療の補助として医療行為を行える新たな職種の創設について検討を行うように努める」と明記されていたのだ。
 この「新たな職種」として米国の医師助手や特定看護師のような職業が導入されれば、医師のためだけでなく、患者への説明や医療の質と安全性の向上にも寄与することは間違いない。
 現在の日本では、救急や人工肛門の手当など特定の分野ごとに認定を受けた認定看護師が活躍するが、米国のように1人で幅広い分野を担当できる特定看護師の養成にはまだまだ遅れている。医師助手については、いまだその検討さえ始まっていないのが実情だ。
 医療費増大によって国が滅ぶと訴えた「医療費亡国論」によって、医師の養成数を抑えた結果、先進国最小の医師数となった日本の勤務医は、長時間労働に加えて書類作成を含めた幅広い業務を余儀なくされている。
 医師不足問題の解消には、メディカルスクール新設による抜本的な医師増員策が一丁目一番地だが、医師を増やすには時間がかかる。過重労働を理由に勤務医が現場から立ち去ることを食い止めるために、付帯決議を生かして、迅速に医師助手や特定看護師を導入し、勤務医の業務分担を図ることが喫緊の課題である。
チーム医療 患者1人に対し、主治医だけではなく複数の医師や看護師などの医療者が協力して治療やケアに当たる医療体制。医療の高度化に伴い、医師だけでの判断、治療は難しくなり、国はチーム医療を推奨し、看護師などの役割拡大を検討している。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 分担推進が喫緊の課題=本田宏」、『毎日新聞』2014年08月06日(水)付。

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