覚え書:「書評:「孟子」の革命思想と日本 松本 健一 著」、『東京新聞』2014年08月10日(日)付。

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孟子」の革命思想と日本 松本 健一 著

2014年8月10日


◆巧妙に排された儒書
[評者]長山靖生=思想史家
 孟子は忠孝の道徳秩序を重んずる儒学の基本典籍のひとつだが、独特のラジカルな思想を含んでいる。「民を貴し」としてその幸福を最重要とし、「君」や「官」はその目的のためにこそ存在理由があるとする。そこから徳を失った君主は廃してもいいとする易姓革命(えきせいかくめい)説が導かれた。
 実際、中国では幾度も革命が起こり、王朝が交替(皇帝の姓が交替)した。だが日本では、易姓革命が起きたことはない。そもそも皇室は「姓」を持たない。日本の氏姓は、国土の地名に由来したり天皇から下されるもので、与える側の天皇には姓がないのだ。ここに日本の独自性があり、孟子との微妙な関係もある。
 孟子は他の儒書と同様に、古代に日本にもたらされたが、奈良・平安には統治思想の参考文献とはされず、巧妙に排除された。江戸時代には朱子学の影響で、四書五経のひとつである孟子も一般に読まれたが、やはりその扱いには戸惑いがあった。
 本書は、孟子の革命思想と日本思想史や文学のかかわりを、古代から近代までの豊富な事例を引きつつ、縦横無尽に論じている。それはまた、日本という国家の成り立ちや、天皇制が保たれてきた秘密を解く試みでもある。歴史にも文学にも精通した著者ならではの議論の拡(ひろ)がりと創見が満ちており、日本の未来に向けた生きた思考が随所に込められている。
(昌平黌出版会発行、論創社発売・1944円)
 まつもと・けんいち 1946年生まれ。思想家。著書『評伝 北一輝』など。
◆もう1冊 
 金谷治著『孟子』(岩波新書)。中国の戦国時代に諸侯に遊説した孟子の生涯と、王道論などの思想を解説する。 
    −−「書評:「孟子」の革命思想と日本 松本 健一 著」、『東京新聞』2014年08月10日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014081002000193.html





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「孟子」の革命思想と日本―天皇家にはなぜ姓がないのか
松本 健一
昌平黌出版会
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