覚え書:「書評:日本人論争 大西巨人回想 大西 巨人 著」、『東京新聞』2014年08月24日(日)付。

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日本人論争 大西巨人回想 大西 巨人 著

2014年8月24日


反戦作家と割り切れぬ謎
[評者]〓秀実=文芸評論家
 本書は、本年三月に亡くなった大西巨人の、一九九六年以降の批評やインタヴューの集成である。大西の生前に企画されていたが、結果的に遺稿集となった。大西の死に際しては、多くの者が『神聖喜劇』を代表作とする大西を反戦・反権力の小説家と位置づけ、「その意志を受け継がねばならない」(本書帯文)とも記した。別段、異を唱えるわけではないが、大西の「意志」は、それほどにシンプルなものだったろうか。
 そもそも、本書のタイトル「日本人論争」は大西生前の指定であったというが、「あとがき」で編者でもある著者の長男・大西赤人も記すように、「そこに籠(こ)められた巨人の真意は明確ではない」。実際、著者の仕事には常に「明確ではない」ところが付随しているのであって、それが大西の魅力ともなっている。たとえば、大西には「底付き」(『五里霧』所収)という奇妙な短篇があるが、それを『神聖喜劇』とともに読む視点が必要であろう。
 本書の白眉は、生前には明らかにされることの少なかった戦時下の大西の思考をうかがうに足る幾つかのインタヴューにある。若い日、大西が短歌を書いていたことは知られており、その幾つかは『神聖喜劇』にも引かれていた。本書では戦時下の大西の短歌が多く発掘され、また、その主要な発表場が前川佐美雄の主宰する雑誌「日本歌人」であったことも明かされる。前川はプロレタリア歌人として出発したが、後にロマン主義に転じ、戦争翼賛の短歌も多い。発掘された大西の短歌に戦争翼賛はないが、それにしてもなぜ発表場として「日本歌人」が選ばれたのか。そのことをインタヴュアー(大西赤人)は執拗(しつよう)に問い、巨人も誠実に応接していてスリリングだが、これもまた答が出るわけではなく、「明確ではない」。ここにも「日本人論争」という謎が浸透していると言えるだろう。
 本書は、大西巨人という作家が残された者に残した、巨大な謎である。
(左右社・8964円)
 おおにし・きょじん 1916〜2014年。小説家・批評家。著書『深淵』など。
◆もう1冊 
 『大西巨人−抒情(じょじょう)と革命』(河出書房新社)。最後の戦後作家の未収録エッセー、大岡昇平らによる作家論や対話を収めた文芸ムック。
※〓は、糸へんに圭 
    −−「書評:日本人論争 大西巨人回想 大西 巨人 著」、『東京新聞』2014年08月24日(日)付。

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大西 巨人
左右社
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