覚え書:「【書く人】有限な世界どう生きる『人類が永遠に続くのではないとしたら』 文芸評論家 加藤 典洋さん(66)」、『東京新聞』2014年08月24日(日)付。

4_2

        • -

【書く人】

有限な世界どう生きる『人類が永遠に続くのではないとしたら』 文芸評論家 加藤 典洋さん(66)

2014年8月24日


 『敗戦後論』などで戦後社会に向き合ってきた著者が、3・11後の思索の軌跡をまとめたスケールの大きな評論だ。人類はこれからどんな生き方をしていくべきなのか。思想史や技術革新史を踏まえた長い射程で、新しい価値観を探った。
 「過去に地球の有限性が議論されても、『我々は大丈夫だろう』と安心していた。それは、技術革新が無限に問題を解決すると信じていたからだと思う。原子力に象徴される技術革新に限界が来たという認識が、この本の出発点にあります」
 原発事故が引き起こした事態とは何か。本書では福島原発の損害保険が事故後、更新できないことに着目し、「この事故の責任を誰も取れない」という事実と向き合う。事故のリスクが産業社会の「枠外」に初めて出てしまったのだ。
 「今までは戦争や革命という枠組みで世の中を考えてきたが、これからは産業事故や技術革新を手掛かりにしないと分からない。素人として一から勉強しました」
 これまでなおざりにされてきた「有限な世界で人はどのように生きるべきなのか」という問いに答えようと、先人の思想を手掛かりに模索した。そこで可能性を見いだしたのは、インターネットで花開いた情報通信革命の担い手たちだ。「『このほうが楽しい』という考え方が、有限性に同調する新しい技術革新を生んだ。利潤追求とは別の価値観がある」
 欲望と人間との新たな関係性が、そこから導き出される。「一九六八年のカウンターカルチャー(対抗文化)の面白さを発見しました。成長に抵抗する『もうこれくらいでいいんじゃないか』という言い方が暗くない。その世代から、情報通信革命の担い手たちが出てきた。彼らから学ぶべきものは大きい」
 この春、二十八年間にわたる大学の教員生活を終えた。本書の続編となる雑誌連載を構想しているほか、若い人に向けた「戦後入門」などの執筆が続く。
 「3・11後、日本社会は劣化している。秘密保護法、消費増税集団的自衛権…。こんな時に『人類がどうの』なんて言うと『何を今さら』と言われるかもしれないが、僕にとっては今の社会に対する危機感とつながっている。もう一度、大きな問題から考えていかないと駄目なのではないかと思います」
 新潮社・二四八四円。
  (石井敬)
    −−「【書く人】有限な世界どう生きる『人類が永遠に続くのではないとしたら』 文芸評論家 加藤 典洋さん(66)」、『東京新聞』2014年08月24日(日)付。
 

        • -


http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2014082402000178.html





Resize1957




人類が永遠に続くのではないとしたら
加藤 典洋
新潮社
売り上げランキング: 167