覚え書:「今週の本棚:岩間陽子・評 『インタヴューズ1・2・3』=クリストファー・シルヴェスター編」、『毎日新聞』2014年09月07日(日)付。

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今週の本棚:岩間陽子・評 『インタヴューズ1・2・3』=クリストファー・シルヴェスター編
毎日新聞 2014年09月07日 東京朝刊

 (文春学藝ライブラリー・各1825円)

 ◇贅を尽くした、よりすぐりの傑作選

 インタビューを読むのは、肩が凝らなくて楽しい。新刊の雑誌が届くと、なぜかまずインタビュー記事に目が行ってしまう。人が人に会いに行って、話を聞いてきて記事を書く−−ただそれだけの営みであり、人類と同じくらい古いものに違いないと勝手に思い込んでいた。

 ところが実際は、19世紀半ばのアメリカで、『ニューヨーク・トリビューン』の編集長ホラス・グリーリーと、『ニューヨーク・ヘラルド』の経営者ジェームズ・ゴードン・ベネット・シニアが、今ある形のインタビューを発明した、というのが「通説」らしい。本書の「序」を読んで初めて知った。編者のシルヴェスター氏はプロのジャーナリストらしいが、この「序」の部分だけで、立派なインタビューの社会史として成立している労作である。

 よく考えれば、ジャーナリズム自体が、19世紀に入ってから成立したのである。インタビューがそれより古いはずがない。「対談」と混同しがちだが、2人の話者の立場が対等な対談と違い、インタビューは明白にする側とされる側が存在する。する側とされる側の葛藤、せめぎ合いもまた、インタビューの歴史の一部である。

 原著は1993年出版の『ザ・ペンギン・ブック・オブ・インタビューズ』。と言っても、安易な二番煎じではなく、米欧の19世紀以来のインタビューの、よりすぐりの傑作選である。巻頭を飾るのは、編者が最古のインタビューと考える、モルモン教の二代目指導者ブリガム・ヤング。日本での知名度は低いが、米ユタ州ソルトレイク・シティを興し、自由独立国家を名乗り、様々な事件を起こした末、かなりの富を17人の妻と56人の娘たちに残した伝説の人物である。

 これに続く80人以上の著名人をすべてリストアップすることはできないが、少しだけ紹介しよう。カール・マルクスマーク・トウェイン、トマス・エディソン、ビスマルクトルストイウッドロー・ウィルソングレタ・ガルボヒトラームッソリーニスターリン(インタビュアーはなんと、H・G・ウェルズ!)、ピカソ毛沢東ケネディと、天国に行ってもこの人たち全員に会うのは難しかろう(何人かは間違いなく地獄へ落ちただろう)という豪華ラインアップである。

 しかも、この本の手の込んでいるところは、すべてのインタビューに、インタビューした人とされた人と当時の状況などに関する解題がついていることである。中にはラドヤード・キプリングのように、する方とされる方の両方に登場する人物もいる。アル・カポネのインタビューに『リバティ』の記者がどのようにたどり着いたかは、それ自体が探偵小説のようだ。

 さらにここからは文藝春秋の面目躍如なのだが、日本語版には、翻訳者を楽しむというおまけまでついてくる。たとえば、フロイトには岸田秀フィッツジェラルドには村上春樹、ヒチコックには和田誠など、何とも贅沢(ぜいたく)な組み合わせなのだ。ジョン・レノンの翻訳を片岡義男に頼んだのは誰なんだろう、などと、目次を眺めながら想像するのもまた楽しい。

 贅を尽くしたチョコレート菓子の箱詰めのような本。一粒、一粒、味わって食べたい。残念ながら日本人は登場しない。この200年、世界を震撼(しんかん)させた日本人はいないということか。98年刊行の単行本の文庫化だが、どこから読んでもいいので、持ち歩けるサイズは嬉(うれ)しい。(新庄哲夫ほか訳)
    −−「今週の本棚:岩間陽子・評 『インタヴューズ1・2・3』=クリストファー・シルヴェスター編」、『毎日新聞』2014年09月07日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140907ddm015070018000c.html





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