覚え書:「書評:きみは赤ちゃん 川上 未映子 著」、『東京新聞』2014年09月07日(日)付。

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きみは赤ちゃん 川上 未映子 著

2014年9月7日
 
◆苦悶と喜びの体験記
[評者]野崎歓=フランス文学者
 著者と阿部和重氏の結婚は、人気作家同士の結婚として話題を呼んだ。そのふたりに赤ちゃんができた。
 有名人の私生活に対する好奇心や、先鋭な言語表現で知られる作家のママぶりへの興味から本書を手に取る読者も多いだろう。そしてだれもが、ここに記された出産体験の臨場感あふれる、切実で、苦しみと喜びに満ちた内容に、激しく心を揺さぶられるにちがいない。
 出産篇と産後篇、いずれをとおしても、著者は予想もしなかった試練に襲われ続ける。強烈なつわり、分娩(ぶんべん)の困難。そして無事赤ちゃんが誕生した後も、ノンストップで苦闘は続く。出産経験のある女性読者は、よくぞここまで書いてくれたと喝采するだろう。未経験の女性読者も、なぜ男はいつも楽をして、女ばかり苦労させられるのか、という問題提起に共鳴するはずだ。では、男の読者は?
 たじたじとなりながら、男たちもまた、エモーション豊かな記述の随所で、はらはらと落涙するに違いない。何よりも全篇をつらぬく、新しい命への無我夢中の愛情がすばらしい。壮絶な日々のただなかで、苦悶(くもん)しながらユーモアを忘れず、自分にツッコミを入れ続ける著者のいきいきとした文章の力にも魅了される。
 泣き笑いの内に、真にポジティヴなもののありかをしっかりと伝えてくれる。必読の、最高の赤ちゃん本の誕生である。
文芸春秋・1404円)
 かわかみ・みえこ 1976年生まれ。作家・詩人。著書『ヘヴン』『水瓶』など。
◆もう1冊
 伊藤比呂美著『良いおっぱい 悪いおっぱい 完全版』(中公文庫)。妊娠・出産から家族計画に及ぶエッセーの集大成。
    −−「書評:きみは赤ちゃん 川上 未映子 著」、『東京新聞』2014年09月07日(日)付。

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