覚え書:「書評:「自由の国」の報道統制 水野 剛也 著」、『東京新聞』2014年09月07日(日)付。

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【書評】

「自由の国」の報道統制 水野 剛也 著

2014年9月7日
 
◆日系紙の運命たどる
[評者]福間良明立命館大教授
 日米開戦後、アメリカでは多くの日系人が住み慣れた地を追われ収容施設へ送られた。では、彼らのコミュニティで発行されていた新聞はどうなったか。本書はこの問いに向き合い、「自由の国」における報道統制の歴史を跡付けている。
 日系人社会では様々な日本語新聞が発行されていた。だが開戦後、日本語新聞の発行は激減する。日本のアジア進出を支持し、連邦政府に批判的な新聞が多かったこともあり、アメリカは銀行口座凍結や印刷機器の差し押さえを実施した。日系人の強制収容が決定されると、発行停止は加速した。陸軍が「敵国語新聞」の発行を嫌っていたことも大きかった。
 しかし、弾圧一辺倒だったわけではない。文民当局の中には、連邦政府の方針を日系人に伝え、彼らを親米へと傾けるべく、日系人の新聞を適度に統制しつつ利用しようとする動きもあった。十二万人もの日系人の収容という大がかりな政策が実行され得たのも、そこでの情報伝達によるところが大きかった。
 日系移民を送り出した当の日本は、終戦後、「自由の国」となった。それから約七十年が経過した今日、ヘイトスピーチの動きが目立ちつつある。果たして、この「自由の国」において、少数者の「言論の自由」はどれほど担保されているのか。こうしたことを歴史から振り返らせてくれる良書である。
吉川弘文館・1836円)
 みずの・たけや 東洋大教授。著書『「敵国語」ジャーナリズム』など。
◆もう1冊
 佐藤卓己著『言論統制』(中公新書)。陸軍の情報将校・鈴木庫三の著作や日記から戦時中の言論弾圧の実態に迫る。
    −−「書評:「自由の国」の報道統制 水野 剛也 著」、『東京新聞』2014年09月07日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014090702000178.html





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