覚え書:「書評:メディアの臨界 粉川 哲夫 著」、『東京新聞』2014年09月14日(日)付。
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メディアの臨界 粉川 哲夫 著
2014年9月14日
◆能動的な読み取りの勧め
[評者]武田徹=ジャーナリスト
紙の本の時代は終わり、電子メディアの時代がこれから来る−。根拠なく前提とされがちなそんな新旧交代の「常識」に本書は異を唱える。
確かにデータとして消費される情報が相手なら、印刷・製品化された本よりも手短で利用しやすいメディアの形があり、ソーシャル・メディアなどは本よりもはるかに優れた情報交換ツールとなろう。だがソーシャル・メディアはその名に反して個々人から社会性を奪い、孤立させてリモートコントロールする管理ツールにもなりかねないと著者は危惧する。
そんな高度管理化を招く「臨界」状態へと電子メディア社会が突入する前に踏み留まるにはどうすればよいか。情報量過剰となった状況の中で、ただデータを消費するのではなく、「一見関係のない情報を結び付け」「無秩序で混沌(こんとん)としたデータの中に意味のあるパターンを見つけ出す」能力を主体的に獲得してゆくべきだ。そう著者は指摘し、メディアを横断した情報の能動的な読み取りを求める。
「電子メディアだけでなく、本や新聞のような旧メディアをも、ひらめきや場の再構築をうながす共振とアクセスを過激に推進するトランスミッター(送信者)としてとらえなおす」メディア・アクティビストたれ。そう書いて著者は、たとえば哲学者ドゥルーズと精神分析家ガタリをその先駆的実践者の例として引いているが、若い読者にはこの機会に、他でもない、著者自身の過去の活動に関心を持つことをお勧めしたい。
本書にもその片鱗(へんりん)が示されているが、インターネットの普及以前から市民ラジオなどを舞台にメディア実践をしてきたその生き様こそが、情報社会の高度管理化に抵抗する最良のロールモデルになる。選ぶべき論点は紙か、電子かではない。誰にも支配されず、誰をも支配しない自律的な社会を作るために、メディアをどう使えるか、なのだ。
(せりか書房・3024円)
こがわ・てつお 1941年生まれ。メディア批評家。著書『情報資本主義批判』。
◆もう1冊
津野海太郎著『本はどのように消えてゆくのか』(晶文社)。電子本・ネット社会が台頭してきた時代のなかで本を再定義した論集。
−−「書評:メディアの臨界 粉川 哲夫 著」、『東京新聞』2014年09月14日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014091402000186.html