覚え書:「今週の本棚・新刊:『白菊 shiragiku』=山崎まゆみ・著」、『毎日新聞』2014年09月21日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『白菊 shiragiku』=山崎まゆみ・著
毎日新聞 2014年09月21日 東京朝刊

 (小学館・1620円)

 毎年8月に開かれる「長岡まつり大花火大会」(新潟県)の長岡花火は100万人の観衆を集める一大イベントだ。しかし、それは見る者の涙を誘うという。どうしてなのか。物語は著者の疑問から始まった。

 主人公は、長岡花火の原形を作った老花火師・嘉瀬誠次(かせせいじ)。第二次世界大戦中、陸軍歩兵として徴兵された。千島列島の「松輪島」で1945年8月、敗戦を迎える。その後、ソ連によってシベリアに抑留された。極寒と飢え、重労働。多くの仲間が死んでいった。遺体を埋葬することさえままならなかった。

 48年8月に帰国。家業を継いだ嘉瀬は戦争で死んでいった者、あるいは敗戦後異郷で亡くなった仲間たちの鎮魂のために、花火を制作した。その一つが、夜空を照らす花「白菊」だ。花火師の熱意は歴史の恩讐(おんしゅう)を越えた。90年7月、シベリア・アムール川で花火大会を実現させたのだ。

 戦争は70年近く前に終わったが、戦争が生んだ悲劇は人々の記憶の中に残っている。当事者のみならず、著者のように後の世代の人たちも、その悲劇をもとに新たな創作を続けてゆく。人間の底力を感じさせる一冊だ。(栗) 
    −−「今週の本棚・新刊:『白菊 shiragiku』=山崎まゆみ・著」、『毎日新聞』2014年09月21日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140921ddm015070060000c.html





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