覚え書:「クロスレビュー:憲法9条とノーベル平和賞」、『朝日新聞』2014年10月15日(火)付。


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クロスレビュー憲法9条ノーベル平和賞
2014年10月15日

(写真キャプション)ノーベル委員会の発表の中継を見守る実行委員会メンバー=相模原市南区

 「憲法9条を守ってきた日本国民」がノーベル平和賞を受賞――。平和賞発表の1週間前、ノルウェーの民間研究機関がそんな予測を発表し、夢物語が一気に現実味を帯びた。9条をノーベル委員会に推薦した団体は期待に胸を膨らませ、改憲派の政治家は「政治的だ」ともらした。受賞は逃したが、9条が改めて注目されるきっかけになったのは確かだ。憲法とかかわりの深い4氏に聞いた。

 ■武力不行使はブランド力 木村草太

 候補に挙がったのは単に9条を維持してきたからではない。9条の下で平和のための「創意工夫」を続けてきたためだ。改憲派も含め、他国の武力との協調を求められる局面で「これ以上は改憲しないと無理」と自制し、9条の趣旨を生かす行動を導き出してきた。その努力への評価だ。

 「9条を守れ」という主張は、自分たちが戦争に巻き込まれたくないからとの観点で語られることが多かったが、武力を行使しないのは日本のブランド力。紛争当事者ではないことでNGOが敵と見られず活動できる。今回、9条を守ってきたことが一国平和主義ではなく世界全体に寄与することを再認識するきっかけにもなった。

 国際秩序の変化の中で、日本が世界平和のためにどんな創意工夫をしていくか。それを今後も考えていくべきだというのが今回のメッセージだと思う。

 (憲法学者

 ■「当たり前でない」と気づく 内山奈月

 文章の暗唱が特技で、小学6年の時に憲法も暗記しました。「平和主義」を唱えた9条の内容は当たり前だと思っていましたが、7月、九州大の南野森先生との共著『憲法主義』の出版を機に「そうではない」と気づきました。

 先生の講義で9条2項の「戦力の不保持」は世界でも特別な条文と知り、第2次世界大戦後、平和を願う人々によって、一言一句吟味して作られた条文に重みを感じました。だから今も、戦争の絶えない世界で人々の心を打つのではないでしょうか。

 平和賞の候補に挙がったのは、市民の署名運動がきっかけ。集団的自衛権をはじめ、解釈については様々な議論がされていますが、憲法は国家権力を制約し、国民を守る大切な存在です。私はアイドルとして、もっと学び、人々が憲法について関心を高めるきっかけになりたいです。

 (AKB48)

 ■戦争を考えるための「素材」 赤坂真理

 私は憲法9条を手放しで評価してはいない。日本人の希望が結実してできたように言われるのは嘘(うそ)だし、「戦争の放棄」を軍国主義と同じ「上からのお達し」で説いたことが、戦争のことを考えてもいけない空気を生んでいった。

 けれども、9条は保持されるべきだとも思う。敗戦国の民の「もう戦争はごめんだ」というはらわたからの実感と、占領者のある層にあった理想主義が、冷戦構造の中でぶつかり編まれた美しい詩。私は憲法9条を、そうとらえている。世界史上でも類を見ない、出逢(であ)いとタイミングの奇跡。それを日本人が「受け入れることを選んだ」という事実。これは世界の人々に知られる価値がある。

 戦争をしない唯一の方法は、戦争について考え抜くこと。日本国憲法は実は優れた「考える素材」であり、精査されるべき「未来への遺産」だと思っている。

 (作家)

 ■世界の認知、広がった証し ジャン・ユンカーマン

 2004年に、私が「映画 日本国憲法」を撮った時、日本の外で9条のことを知っている人は、ほとんどいなかった。今回ノーベル平和賞の候補になったということは、9条がそれだけ認知されてきたことの証しだ。

 もし、イラクアフガニスタンでの米国の戦争がなければ、今のイスラム国はあっただろうか。歴史をさかのぼれば、戦争が争いを広げてきたことがわかる。「戦争で問題を解決する」ことが古い考え方だと思う市民は世界で増えており、ボリビアなど、9条の後を追って、憲法に平和条項を盛り込む国も出てきている。

 だが、安倍政権は集団的自衛権閣議決定を進め、9条の精神を台無しにしている。今回、受賞できなかったのは残念だが、その分、市民自らが9条の大切さを理解し戦争を回避する努力をしていくべきだと思う。

 (映画監督) 
     −−「クロスレビュー憲法9条ノーベル平和賞」、『朝日新聞』2014年10月15日(火)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11401568.html





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