覚え書:「今週の本棚・新刊:『犬たちの明治維新 ポチの誕生』=仁科邦男・著」、『毎日新聞』2014年10月19日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『犬たちの明治維新 ポチの誕生』=仁科邦男・著
毎日新聞 2014年10月19日 東京朝刊

 (草思社・1728円)

 たいへんな労作が現れた。犬という視点を通して幕末から明治までの激動の時代をとらえた本書は、独創性に富み、驚きが凝縮されている。歴史に関心のある読者にとって、忘れがたい一冊になるだろう。

 一つだけ紹介したい。西郷隆盛西南戦争当時、少なくとも5匹の犬を連れていたことを、諸資料をもとに明らかにしていく。それだけでも興味津々のエピソードだが、著者はその事実を押さえながら、西郷の心性を解きほぐす。そして、導き出したのが、西郷は<戦争だと考えていなかった>という論考だ。同じように、吉田松陰、ペリー、明治天皇といった、その時代を象徴する人物についても、犬という補助線を引くことで新たな人物像が提示される。

 感嘆するのは、当時の新聞、文学、日記などを、自在に引きながら、犬と時代、人々との関わりを考証していることだ。巻末の参考資料一覧の量たるや圧巻。本文を読むと研究は半世紀近くに及ぶことがうかがわれ、その粘りには頭が下がる。

 終章、筆致が変わる。西郷が愛した薩摩犬は昭和の時代に絶滅した。見え隠れする戦争の悲劇……。ジャーナリストの矜持(きょうじ)が光る。(隈)
    −−「今週の本棚・新刊:『犬たちの明治維新 ポチの誕生』=仁科邦男・著」、『毎日新聞』2014年10月19日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20141019ddm015070039000c.html






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