覚え書:「書評:日本政治とメディア 逢坂 巌 著」、『朝日新聞』2014年10月19日(日)付。

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日本政治とメディア 逢坂 巌 著  

2014年10月19日

◆宣伝と弾圧 統制の歴史
[評者]五野井郁夫政治学
 政治家はいかにしてメディアに圧力をかけ、影響力を行使してきたのか。吉田茂から第二次安倍政権まで、メディアと日本政治のあり方を問うた政治史が本書である。政治権力によるメディア統制には二つある。宣伝やPR活動といったポジティブな統制と、弾圧や政治介入等のネガティブな統制だ。池田勇人の低姿勢路線は前者であり、佐藤栄作内閣のテレビ放送への介入は後者の最たるものだった。
 一九八五年の「ニュースステーション」からテレビは「報道の時代」を迎えた、と著者は言う。リクルート事件以後、自民党政治への嫌悪から増大した無党派層を取り込む手段として、各党はテレビを重視するようになる。結果、テレビでのパフォーマンスやキャラが政治家の重要な資質として認識され、メディア側も政治家をテレビタレント扱いし始めた。この風潮のなか、テレビのワイドショー向きに振る舞い、ネットも駆使してポジティブな統制に成功したのが小泉純一郎だ。民主党のネット広報というマスメディアを媒介しない国民対話や、橋下徹の過激な発言やツイッター活用術も当時の時代を反映したものだった。
 第二次安倍政権はNHKの会長・役員人事を安倍カラーで染め上げ、安倍政権に手厳しい朝日新聞日刊ゲンダイを名指しで非難するなど、ネガティブな統制に拍車をかけている。二〇〇一年の戦時性暴力をめぐるNHKの番組改変問題は現在進行形のネガティブな統制の前哨戦だったとも考えうる。
 だが民主政治とは、政権にとって有利な情報も不利な情報も報道され、そうした情報に基づいて人々が政治を判断するものだ。それゆえ支持率も一定しない。だからといって不安定な支持率の克服を、ジャーナリズムへの弾圧や操作によって行うべきではない、と著者は説く。評者も全く同感である。なぜならば政府による言論統制とは、民主主義とは対極にある独裁国家への第一歩にほかならないからだ。
 (中公新書・994円)
 おうさか・いわお 1965年生まれ。立教大講師。共著『テレビ政治』など。
◆もう1冊 
 将基面貴巳(しょうぎめんたかし)著『言論抑圧』(中公新書)。一九三七年に東京帝大教授の矢内原忠雄が辞職した事件について、その複雑な構図を読み解く。
    −−「書評:日本政治とメディア 逢坂 巌 著」、『朝日新聞』2014年10月19日(日)付。

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