覚え書:「書評:珈琲飲み 中根 光敏 著」、『朝日新聞』2014年10月19日(日)付。

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珈琲飲み 中根 光敏 著

2014年10月19日

◆美味しさを探し求め
[評者]雑賀恵子=評論家
 社会学者が珈琲(コーヒー)の豆のことや飲み方、珈琲や喫茶店の文化や歴史についてなど、あれこれ四百ページもの本を書くのだから、よほど珈琲が好きなのだろう。と思ったら、珈琲好きとは公言しないそうだ。珈琲を勧められたり貰(もら)ったりしてもほとんどの豆は腐っているので捨てざるを得ないからだという。微生物による腐敗ではなく酸化している豆を「腐る」というのはあんまりな気もするが、それほど市販の豆はダメらしいのに驚いた。ネット販売の廉価豆をコーヒーメーカーで大量に作りおきし、一日に十杯近く飲む評者のようなバカ舌にはわからない。
 だが、趣味が昂(こう)じて本を書いたのかというほど、通の蘊蓄(うんちく)を傾けて近寄りがたいものではない。むしろ、珈琲というものを追いかけて古今の資料を蒐集(しゅうしゅう)、各地の名店を行脚し、居着いて修業し、はては海外の産地まで巡る姿に、ここまでするかと求道的なものさえ感じる。「嗜好品(しこうひん)とは生存に不可欠ではないが、ないと淋(さび)しいもの」という定義があるが、そもそも著者は珈琲がない世界には生きていたくない、それほどまでのものが嗜好品だと考えているのだ。追い求めるほどに、至高の美味(おい)しさとはなにかという疑念が湧き、思索の森に迷い込む。
 ページの余白に時折ちょろりと顔を出すジャコウネコのイラストの謎も読めばわかる、遊び心溢(あふ)れる造りの本である。
 (洛北出版・2592円)
 なかね・みつとし 1961年生まれ。広島修道大教員。専門は下層社会の社会学
◆もう1冊 
 A・ワイルド著『コーヒーの真実』(三角和代訳・白揚社)。コーヒー誕生以来の歴史や文化、植民地との関係を解説。
    −−「書評:珈琲飲み 中根 光敏 著」、『朝日新聞』2014年10月19日(日)付。

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『珈琲飲み』: 「コーヒー文化」私論
中根 光敏
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