覚え書:「今週の本棚・本と人:『阿蘭陀西鶴』 著者・朝井まかてさん」、『毎日新聞』2014年10月26日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『阿蘭陀西鶴』 著者・朝井まかてさん
毎日新聞 2014年10月26日 東京朝刊

 (講談社・1728円)

 ◇エンタメ作家と名乗ります−−朝井(あさい)まかてさん

 『恋歌』で直木賞に輝いたのは今年1月。受賞後第1作となった本書は、娯楽小説の祖ともいえる300年前の物書き、井原西鶴を描いた。大阪府出身の現代作家が、江戸時代の大坂が生んだ浮世草子作者の創作に苦闘する姿に迫った。

 「好色一代男」「世間胸算用」などで知られる西鶴だが、最初は俳諧師だった。一昼夜に数多くの句を作る矢数(やかず)俳諧を始めるなどの破天荒ぶりで「阿蘭陀(おらんだ)西鶴」を自称。やがて浮世草子に手を染め、いわゆるベストセラー作家になっていく。「受賞後第1作が西鶴になったのは、偶然かつ無自覚」とのこと。

 ただ、西鶴には何も刊行しない約2年の空白期間があったことに引かれた。「最初の『好色一代男』の執筆は俳諧師としての能力で押し通せたと思う。空白は、研究者は体調不良とも説明するが、これほどの人でも書けなかった時期があるんだと思った」。昨夏、ある作品でどうにも書く手が進まなかった。「書きたいのに書かれへん。今までのやり方では違うんや、と苦しんだ。西鶴の空白の期間に重ねたかもしれません」。大西鶴を自分自身に重ねるのは「おこがましいが」とことわって、こう続けた。「西鶴の書き手としての心情に分け入った時、エンターテインメント作家の芯のようなものが確かにあった。それを書きながら、エンターテインメント作家という名乗りを初めて自分にあげました」

 物語は西鶴の娘おあいが、父の帰る気配を察知し晩のおかずを作りながら、料理を仕込んでくれた今は亡き母を思い出す場面から始まる。ほんの小さな違和感を感じながらも読んでいくと、この娘の目が見えないのだと知れ、違和感の正体に気付く。なめらかで抑制の利いた文章に一気に物語に引き込まれる。この娘の視点で物語は進む。

 目が見えないと、他の感覚が発達すると考えがち。盲学校などを取材して、そう考えることの間違いを知った。「生きるために大変な努力に努力を重ねて、能力を獲得するんです。そう書けていればいいですが」。おあいの料理はどれもおいしそうだ。「私が普段作っているものを書きました」とうれしそうに笑った。<文・内藤麻里子/写真・丸山博>
    −−「今週の本棚・本と人:『阿蘭陀西鶴』 著者・朝井まかてさん」、『毎日新聞』2014年10月26日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20141026ddm015070038000c.html






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