書評:樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、2014年。

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樋口直人『日本型排外主義 在特会外国人参政権・東アジア地政学名古屋大学出版会、読了。果たしてフラストレーションやルサンチマンといった社会不安だけが日本の排外主義の動機となっているのか。本書は先行研究を踏まえ、著者自身の聞き取り調査も加えながら、その経緯を明らかにする。

馬鹿と言っても聞く耳は持たないし誤りの指摘はスルー。排外主義運動は「通常の病理」として扱われてきたが、そうではなく「病理的な通常」として著者は扱う。その歴史的経緯こそ、帝国と植民地が対照する歴史的に生成された東アジアの地政学の鬼子なのだ。

「国家は国民だけのものであり、外国に出自を持つ(とされる)集団は国民国家の脅威であるとするイデオロギー」が排外主義だが、日本では、現実には外国に出自を持つ集団すべてが脅威と見なされない。ここに日本型排外主義の特色を見出すことができよう。

ミナレット禁止のスイスやブルカ大げさに取り上げるフランスの事例などが欧米型排外主義の特質をなす。対して日本で顕著なのは、外国人参政権や東アジア諸国関連のイシューに対する非合理な反応。こうした反応は「東アジアの地政的構造」を背景とする。

「日本型排外主義とは近隣諸国との関係により規定される外国人排斥の動きを指し、植民地清算と冷戦に立脚するものである。直接の標的になるのは在日外国人だが、排斥感情の根底にあるのは外国人に対するネガティブなステレオタイプよりも、むしろ、近隣諸国との歴史的関係となる」。

「排外主義運動は、単なるレイシズムとしての在日コリアン排斥ではない。『主流の歴史にたいして不協和音を奏でるような物語」(グラック※)を体現する存在たる在日コリアンを、汚辱の歴史と共に抹殺したいという欲望が根底にある」。※→グラック(梅崎透訳)『歴史で考える』岩波書店

今世紀に入ってからの保守政治の変容は、現実の排外主義運動を促す結果となっている。しかしそれに至る経緯は、はるか以前から築かれ同時に在日コリアン政策に反映されてきた。本書の分析に、その 根深さに暗澹とするが、本書は「今読むべき本」である。





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