覚え書:「書評:日本遊戯思想史 増川 宏一 著」、『東京新聞』2014年11月09日(日)付。

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日本遊戯思想史 増川 宏一 著

2014年11月9日

◆権力との対立を繰り返す
[評者]小倉孝誠=慶応大教授
 古今東西、遊びと賭博は人々の生活と関係が深い。そして今、日本ではカジノ公営化の是非が政治の争点になっている。自治体にとっては観光の振興につながるという意見がある一方で、ギャンブル依存症が増えて社会問題になる、という反対論も根強い。
 本書は日本人と遊戯の関わりを、古代から現代までをつうじて跡づけ、日本人が遊戯をどのように認識し行使してきたかを明らかにする。この遊戯の中には賭博が含まれる。古代から政府は、秩序を乱すとして賭博を禁止してきたが、それは逆に、そうした禁止にもかかわらず賭博がひそかに行われていたことを示す。賭博をめぐって権力と民衆が対立してきたのだ。
 十四世紀まで博徒は職人として扱われ、博打(ばくち)が芸能の一つだったという指摘は興味深い。それが南北朝の争乱期に、博徒が反体制的な集団となって窃盗や暴力に手を染めたため、博打が犯罪の温床と見なされるようになった。他方、公家のあいだでは碁、将棋、歌合(うたあわ)せ、鞠(まり)などが好まれ、文化的な洗練に達した。遊戯には社会階層による違いがあったのだ。
 明治政府は文明開化政策のもとで、遊びを怠惰と軟弱のしるしとして蔑(さげす)んだが、外国の文物の移入に伴って、ビリヤード、麻雀(マージャン)、トランプなどが新たな遊戯として加わる。遊びに関して庶民はしたたかであり、支配階級の言いなりにはならない。太平洋戦争中、軍事政府は「愛国百人一首」を普及させようとしたが、国民はほとんど関心を示さなかった。遊びの世界まで権力に干渉されたくないということだろう。
 戦後は宝くじ、競馬、競輪、競艇公営ギャンブルとなったが、これは日本の遊戯史において大きな転換だった。それらが自治体にとって貴重な財源になってきたことは周知のとおりだが、そこにも衰退のきざしが見える。わが国の遊戯史を手堅く網羅的にたどった本書は、そうした中でのカジノ論争にも一石を投じてくれるだろう。
平凡社・3456円)
 ますかわ・こういち 1930年生まれ。遊戯史研究家。著書『賭博』『将棋』など。
◆もう1冊 
 植島啓司著『賭ける魂』(講談社現代新書)。自らのギャンブル経験と遊びは文化という哲学から、不確実な時代を生きる知恵を伝授。
    −−「書評:日本遊戯思想史 増川 宏一 著」、『東京新聞』2014年11月09日(日)付。

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日本遊戯思想史
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増川 宏一
平凡社
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