覚え書:「書評:遙かなる城沼 安住 洋子 著」、『東京新聞』2014年11月9日(日)付。

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遙かなる城沼 安住 洋子 著

2014年11月9日

◆ひたむきな青春描く
[評者]末國善己=文芸評論家
 安住洋子の三年ぶりの新作は、館林藩で生まれ育った村瀬惣一郎と友人たちを描く青春時代小説である。多額の借金を抱え、壮絶な派閥抗争も続く館林藩が現代と似ているだけに、厳しい社会状況に翻弄(ほんろう)されながらも、真っすぐに成長する惣一郎たちへの共感も大きいだろう。
 長男だが平凡な惣一郎は、優秀な弟の芳之助と妹の千佳に劣等感を抱き、親友の江藤寿太郎、笠原梅次と遊んでいた昔を懐かしんでいた。ある日、芳之助が藩校へ通うことが決まる。それを嫉(ねた)んだ寿太郎たちが芳之助に暴行し、この事件を機に惣一郎と寿太郎は疎遠になる。
 やがて父に代わって出仕した惣一郎は、雑用でも嫌がらずに引き受け上司から信頼される。だが寿太郎は、手柄を立てたいと焦る気持ちが空回りしていた。
 著者は、自分が凡庸である現実を受け入れ、努力を続けた惣一郎を通して、現代人が忘れがちになっているひたむきに生きる大切さを謳(うた)い上げているのだ。
 その一方で寿太郎は、逆転を狙っては失敗し転落していく。ただ寿太郎は弱く愚かだが、決して悪役ではない。愚直な惣一郎より、欠点が多い寿太郎の方が、より身近に感じられる存在なのである。
 それだけに、惣一郎たちの友情に支えられた寿太郎が一歩を踏み出す終盤は、人はいつでも再挑戦できると気付かせてくれ、明るく前向きな気分になれる。
小学館・1512円)
 あずみ・ようこ 1958年生まれ。作家。著書『夜半の綺羅星』『日無坂』など。
◆もう1冊 
 安住洋子著『しずり雪』(小学館文庫)。江戸の庶民の愛と友情を描く表題作など四篇を収めるデビュー作品集。
    −−「書評:遙かなる城沼 安住 洋子 著」、『東京新聞』2014年11月9日(日)付。

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安住 洋子
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