覚え書:「書評:日本の年金 駒村 康平 著」、『東京新聞』2014年11月16日(日)付。

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日本の年金 駒村 康平 著

2014年11月16日
 
◆変転する制度の本質
[評者]森清=労働研究家
 高齢化社会年金生活者の一人として教えられることが多かった。年金は「所得」ながら、年金制度は社会保障制度における要の生活保障であり、いま無年金者、国民年金の保険料未納者、生活保護受給者が増えている実情が報告される。また来年十月から社会保障・税番号制度による「マイナンバー」で、制度が情報化されることも改めて本書で知った。
 将来にわたってよりよい生活保障を享受するには、年金受給年齢の上昇、年金額の低下という負の制度も受容する必要がある、と著者は言う。同意せざるをえまい。働けない人が各世代に増加している。定年時期が上がって高齢者が働き続けるとしても、若年層の活躍の場と機会を侵してはならない。労働環境と意識を社会保障の充実のために改革する必要がある、という指摘にも注目したい。
 努力と工夫を重ねている先進諸外国の年金制度の例も多く紹介される。今のところ危機的状況にはない日本の年金財政にしても、政府の年金積極運用の思惑には危うさがあるとの指摘は見逃せない。社会保障、年金制度の策定、決定の場にいて著者は、改革が政治的配慮で回避されることに危機感を覚えている。
 年金制度は分かりにくい。複雑で改変が重ねられるからである。それを整理しながら制度の本質と歴史、今後のありようを示し、時宜を得て有用な本である。
 (岩波新書・886円)
 こまむら・こうへい 1964年生まれ。慶応義塾大教授。著書『大貧困社会』など。
◆もう1冊 
 「磯野家の年金」編集部編『磯野家の年金』(1)(2)(ゴマブックス)。サザエさんの家族を例に年金の仕組みを解説。
    −−「書評:日本の年金 駒村 康平 著」、『東京新聞』2014年11月16日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014111602000166.html






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駒村 康平
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