覚え書:「今週の本棚:藻谷浩介・評 『ふるさとをつくる』『フルサトをつくる』」、『毎日新聞』2014年11月23日(日)付。

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今週の本棚:藻谷浩介・評 『ふるさとをつくる』『フルサトをつくる』
毎日新聞 2014年11月23日 東京朝刊


 ◆『ふるさとをつくる』=小島多恵子著

 (筑摩書房・2052円)

 ◆『フルサトをつくる』=伊藤洋志、pha(ファ)著

 (東京書籍・1512円)

 ◇土地に根ざした思いこそ地方創生のかぎ

 突然の衆議院解散。年末の総選挙は、諸団体の忘年会の中止や贈答の自粛を招き、巷(ちまた)の景気を冷やしてしまうのだが、政権にはそんな細部?を構う余裕はないようだ。

 あおりで、成長戦略の柱だったはずの女性活躍推進法案などは審議未了、地産地消を盛り込んだ都市農業振興法案は未提出のままとなってしまった。政略の世界の住人が内心何を「後回しでいい」と思っているのか、はからずも見えるようだ。

 それでも「地方創生」法案はなんとか成立したが、熟議を経ない「やっつけ採決」となったのは残念だ。とはいえ「地方創生」自体が、やっつけで出て来たような言葉ともいえる。まるで「地方にはもう何もないので、ゼロクリアで一からやり直す」というように聞こえるが、それは(地方の実情を良くご存じのはずの)関係者の本意ではあるまい。

 「地方には何もない、バラマキを待つ連中がいるだけだ」と断ずるあなた。個人個人が砂粒のごとくバラバラな都会の生活を、当たり前だと思っているあなた。掲題の『ふるさとをつくる−アマチュア文化最前線』を読んで、ちょっと考え直されてはいかがだろう。

 この本には、草の根の文化活動を創造し継承している老若男女の、活気みなぎる生きざまが、練達の切れ味ある文章で活写されている。9つの紹介事例の過半は老舗の「成功例」であり、目次だけを見ればあるいは既視感があるかもしれない。しかし確固とした文化観を持つ著者なので、マスコミ露出先行の「なんちゃって成功例」や、一時的に盛り上がった短命事例は出てこない。著者が個人的に入れ込み、私費で多年現地に通い込みながら学んだ事実を読み進むうち、あなたも忽然(こつぜん)と理解するだろう。地域を、ふるさとを形作っているのはお金儲(もう)けのネタではなく、文化づくりを介した人と人とのつながりであることを。

 とりわけ、原発被災地に隣接する福島県川俣町で、震災の年の秋にも敢(あ)えて例年通り挙行されたフォルクローレの祭典「コスキン・エン・ハポン」の話は、地域に暮らす人間の心底にある熱情が、国境を越えて感応し合うことを語って余りある。

 とはいえ、この本に紹介される地域の多くも、そこにささやかながら息づく文化活動も、人口減少という否応(いやおう)ない現実に晒(さら)されている。最終章に描かれる高知県仁淀川町(によどがわちょう)の「秋葉神社祭礼練り」など、担い手の消滅の危機をいつまでかいくぐり続けられるのだろうか。

 その問いに対する答えは、相似した表題の『フルサトをつくる−帰れば食うに困らない場所を持つ暮らし方』の中に見つかるかもしれない。東京と、和歌山県熊野地方の山中と。遠く離れたこの2地域を行き来しつつ暮らす2人の若者が代わる代わる記す、縁もゆかりもなかった田舎での生活拠点の作り方。生業の見つけ方。地元民とのつながり方。文化活動の起こし方。実体験から語る実践方法には、類書にない具体性、身体性、そしてしなやかさが備わっている。こうした暮らし方を選ぶ若者が増えていく先に、地方の、いや日本の希望があるのではないか。

 政治は、借金の積み上げが本当の行き詰まりをもたらすその日まで、お金という記号をコレクションしたいだけの連中に奉仕を続けるのかもしれない。だが絶望はするまい。土地土地に根ざす人間の思いは、制度やイデオロギーの寿命を超えて、未来に続いていくに違いないからだ。
    ーー「今週の本棚:藻谷浩介・評 『ふるさとをつくる』『フルサトをつくる』」、『毎日新聞』2014年11月23日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20141123ddm015070010000c.html






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