覚え書:「書評:どうしてこんなところに 桜井 鈴茂 著」、『東京新聞』2014年11月23日(日)付。

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どうしてこんなところに 桜井 鈴茂 著

2014年11月23日
 
◆逃走と出会いの物語
[評者]中辻理夫=ミステリー評論家)
 二〇〇七年に千葉県市川市で起きた、英会話学校講師の外国人女性が殺害された事件は日本犯罪史上、かなり重要なものの一つと言える。犯人は日本中を放浪するという大掛かりな逃亡を続け、〇九年にようやく逮捕された。今年一月に刊行された吉田修一『怒り』には、このインパクトの強い事件を彷彿(ほうふつ)させるところがある。そして本作もしかりなのだ。
 東京郊外に住んでいた三十代の会社員久保田輝之は半ば衝動的に妻を殺害してしまった。自首ではなく逃走を選んだ彼は、偽名を使って東北・北海道・大阪・九州・沖縄など、二年以上にわたり列島各地を次々と移り住んでいく。さほど身分を詮索(せんさく)されない代わりに、過酷な肉体労働に従事することが多くなる。
 本作は必ずしも輝之だけが視点の中心人物になっているわけではない。刑事の捜査プロセスが描かれるし、輝之と出会った女性が小説家の取材に応じる章もある。体裁としてはミステリー小説と言えるだろう。しかし、それは読者をストーリーに引き込むための手段であって、作者の主眼はロード・ノヴェルを書くことだったと思う。元々極悪人ではなく、むしろ善人の主人公が出会う人々の多くから悲哀を感じ取っていく姿がいいのだ。著者の二〇〇二年のデビュー作『アレルヤ』同様、ケルアックの小説など、ポップカルチャーからの影響が感じられる。
双葉社・1728円)
 さくらい・すずも 1968年生まれ。作家。著書『女たち』『冬の旅』など。
◆もう1冊 
 市橋達也著『逮捕されるまで』(幻冬舎文庫)。犯行後二年七カ月の逃亡生活と拘置所での思いをつづった手記。
    −−「書評:どうしてこんなところに 桜井 鈴茂 著」、『東京新聞』2014年11月23日(日)付。

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