覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 『全額社会保障に』のウソ=本田宏」、『毎日新聞』2014年11月26日(水)付。

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くらしの明日
私の社会保障
「全額社会保障に」のウソ
公約無視の消費増税は許されない
本田宏 埼玉県済生会栗橋病院院長補佐

 消費税が今年4月から3%引き上げられ8%になったが、経済政策「アベノミクス」は功を奏さず、契機は低迷している。ついに10%への再増税の延期と、衆院解散・総選挙が実施されることになった。
 長年日本の低医療費の問題について警鐘を鳴らしてきた立場から、今春の消費増税には大変複雑な思いを抱いてきた。その布石が、すでに2006年の小泉純一郎政権時代に打たれていたことを知っていたからだ。
 小泉首相はその年6月の経済財政諮問会議で、「どんどん切り詰めていけば、もう歳出削減をやめてほしいという声が出てくる。『増税してもいいから必要な施策をやってくれ』という状況になるまで歳出を徹底的にカットしなければならない」と発言した。そして先進国最低に抑制してきた日本の医療費の自然増を、さらに07年度から11年度まで年間2200億円、計1兆1000億円も削減した。
 政府は、医療など社会保障の現場を疲弊させ、国民の不安感を増大させた挙げ句に。「あなたの医療・年金・介護・子育てを守るため消費税のご負担をお願いします。消費税率の引き上げ分は全額、社会保障の充実と安定化に使います」と宣伝し、消費増税を断行した。しかし現実は、増税分のうち社会保障に使ったのは1割だけだった。
 実際に社会保障関連では負担増と給付削減が目白押しとなっている。70〜74歳の患者負担は1割から2割へとアップ。入院給食費は自己負担化し、一定所得の人は介護保険料負担が1割から2割に増えた。さらに年金も実質給付減が予定されている。年金支給開始年齢の67〜68歳への引き上げ▽75歳以上の医療費の患者負担引き上げ▽介護報酬の6%削減▽特別養護老人ホームへの新規入所について要介護1、2を実質上排除−−などの改悪までもが検討されている。
 延期が決まったものの、政府は10%への増税キャンペーンで「みんなの安心が、ひとつづつ実現し始めています。消費税率の引き上げ分は、すべて社会保障に」と現実と異なる宣伝を繰り返していた。宣伝には有名子役が起用され、多額の費用を投じたと考えるのが自然だろう。
 脆弱な社会保障を人実に「全額社会保障に回る」と、実際にはウソを言って強行した消費増税の結果は年金削減、保険料アップ、サービスの低下だった。詐欺ともいえるような日本の政治、というのが悲しい現実だ。公約を平気で無視する政治を許したままでは、いくら消費税を増やしても社会保障の充実は望めない。先日の沖縄県知事選はケンミンが政府の方針に「NO」を突きつけて勝利したが、今回の衆院選も国民不在の政治にストップをかける千載一遇のチャンスだ。
消費増税 財政健全化と社会保障機能を強化する目的で消費増税法が2012年に成立、消費税が今年4月に5%から8%に引き上げられた。15年10月には10%に再増税する予定だったが、景気低迷などから安倍晋三首相は17年4月まで延期すると表明した。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 『全額社会保障に』のウソ=本田宏」、『毎日新聞』2014年11月26日(水)付。

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