覚え書:「書評:バランスシートで読みとく世界経済史 ジェーン・G・ホワイト 著」、『東京新聞』2014年11月30日(日)付。

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バランスシートで読みとく世界経済史 ジェーン・G・ホワイト 著

2014年11月30日


◆会計の手法が果たす役割
[評者]根井雅弘=京都大教授
 複式簿記の考案者は、一四四〇年代にフィレンツェ近くの町で生まれたルカ・パチョーリというフランシスコ修道会の修道士だが、本書は、複式簿記を通じて世界経済の歴史を読み解くというユニークな試みである。
 複式簿記は、産業革命と株式会社の時代に飛躍的な進歩を遂げた。この時代に、「単なる取引の記録方法」から「ビジネスを管理する方法」へ、つまり「簿記」から「会計」への進化が生じた。陶器製造で有名なウェッジウッドは、一七七二年に複式簿記を採用し、のちに原価計算として知られる管理会計の手法を確立していく。
 もちろん、問題はあった。鉄道は巨額の建設費を必要とする産業だが、10%の配当の支払いに窮するあまり帳簿をごまかす会社も多かったという。そこで、イギリス議会は、資本金と利益を明確に区別することを義務づける「一八四四年株式会社法」を制定し、その後も何度も改正していく。当時は資本と収益は別であり、配当の原資は収益であることが明確に理解されていなかったのだ。株式会社の発展は、「有限責任」「減価償却」「公的な審査」などの導入につながり、「会計士」という職業も誰もが知るようになった。
 複式簿記の考え方は、二十世紀に入って、ケインズ革命のあと「国民経済計算」の導入と普及にもつながる。しかし今日では、GDP(国内総生産)が国の幸福度を測る指標として不十分であると認識されるようになった。
 環境の利用にはコストがかかり、このままでは地球環境の破壊につながるのだから、著者は、今こそアカウンタント(会計士)がイニシアチブを発揮して、「自然を会計に含める」方向に誘導すべきだと主張する。この主張自体は新しくはないが、アカウンタントが「地球上の最後の希望の星」になれるかどうかは予断を許さない。だが、もはや猶予の時間はないのだ、と著者は情熱的に訴えかけている。具体例も豊富で、楽しく読める一冊だ。
(川添 節子訳、日経BP社 ・ 2052円)
 Jane Gleeson‐White オーストラリアの編集者・ジャーナリスト。
◆もう1冊 
 F・アレン&G・ヤーゴ著『金融は人類に何をもたらしたか』(東洋経済新報社)。世界の金融の歴史を概観し、その役割を考察。
    ーー「書評:バランスシートで読みとく世界経済史 ジェーン・G・ホワイト 著」、『東京新聞』2014年11月30日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014113002000176.html






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ジェーン・グリーソン・ホワイト(Jane Gleeson-White)
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