覚え書:「書評:日本人は人を殺しに行くのか 伊勢崎 賢治 著」、『東京新聞』2014年11月30日(日)付。

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日本人は人を殺しに行くのか 伊勢崎 賢治 著

2014年11月30日


軍事法廷の必要説く
[評者]吉田司=ノンフィクション作家
 なぜ安倍政権が集団的自衛権を欲するのかといえば、中国が汎アジア的な軍事大国になったからだ。アメリカを巻き込んで中国VS日米同盟の対決図式を作らねば日本は危ういと思いつめているのだが、それには憲法九条の呪縛を解き、米軍と共に自由に<戦える軍隊>が必要だ。
 一方、イラクアフガニスタンの二つの戦争で疲弊したアメリカは中国と本気で戦う気はない。ただし、その<戦える軍隊>の方は大歓迎。PKO(国連平和維持活動)は、中東・ペルシャ湾など米軍の「地球規模の防衛」任務に利用できる。かくて集団的自衛権の中心命題とは自衛隊<軍隊化>の完成なのだが、その戦える自衛隊の海外派遣こそ最も危険な道だ、と力説するのが本書である。
 現在のPKOは「住民の保護」のため武力を積極的に用いる好戦的なPKOに変化しており、自衛隊は激戦の中で「無垢(むく)の民間人と区別のつかない『敵』を殺さざるを得な」くなる。なのに日本の自衛隊には「軍法」(軍事法廷)がない。民間人虐殺の戦争犯罪があっても「法に問われない」のだ。そんな軍隊は戦地の民衆の大きな怒りを買うだけで、我々は集団的自衛権以前に「自衛隊に軍法を!」の国民的論議が必要だという。
 著者は元国連PKO上級幹部。軍法なき自衛隊というリアルな展開で凡百の集団的自衛権論争の意表をつく注目本だ。
朝日新書 ・ 842円)
 いせざき・けんじ 1957年生まれ。東京外国語大教授。著書『紛争屋の外交論』。
◆もう1冊 
 伊勢崎賢治著『武装解除』(講談社現代新書)。海外の紛争地で武装解除を指揮しながら平和について考えたこと。
    ーー「書評:日本人は人を殺しに行くのか 伊勢崎 賢治 著」、『東京新聞』2014年11月30日(日)付。

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