覚え書:「松尾貴史さん(タレント)と読む『超芸術トマソン』」、『朝日新聞』2014年12月14日(日)付。

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松尾貴史さん(タレント)と読む『超芸術トマソン』 
[掲載]2014年12月14日

(写真キャプション)松尾貴史さん(タレント)中島らも原作「君はフィクション」を15日まで東京・全労済ホール/スペース・ゼロで上演中。仙台、大阪でも。=山岸伸撮影

■省エネな遊び方に衝撃

超芸術トマソン』 [著]赤瀬川原平 (ちくま文庫・1188円)

 赤瀬川さんの本で最初に読んだのがこれで、電車の中で声あげて笑いましたよ。こんな面白い世界があったのかと。上って下りるだけの「純粋階段」とか何も支えていない柱とか、何かの痕跡のような、作った人が何も意図していないところでイマジネーションを膨らませ、美的価値を見いだす。地味だけどキッチュでね。遊び場が見つかった、自分の居場所はここだ、くらいの気持ちでした。
 学生の頃はグラフィックデザイナーになりたかったんですが、面白いこと、人がびっくりするようなことが好きで、自分の好きな質のところに入り込めて、気づいたら後戻りしにくい状況になっていた。この道(と言って、どの道かわかってないんですけど)を目指したわけではないんです。中島らもさんと飲み歩いたり、お宅に入り浸ったりしていたのもその頃。この本で、イマジネーションの上手な使い方というのかな、意図とかドラマ性とか過去の来歴など何もなさそうなところからイメージだけを増殖させる省エネな遊び方に衝撃を感じたんです。「失敗」を「芸術を超えた」と捉える心の深さ、大きさにもね。
 明治のジャーナリスト宮武外骨を書いた『外骨という人がいた!』も面白くて、いまからするとストーカージャーナリズムだなと思いますが、これは赤瀬川さんの語り口が、外骨への慈愛に満ちているんだけど笑い物にするところではきれいに突き放す、というさじ加減が粋だなあと思いました。ご本人も「千円札事件」の裁判を闘った方です。遠くから憧れて見てはいても、こういう人は会うと厳しいんだろうな、などと想像していましたが、後年、ラジオ番組にゲストで来てくださった時には、僕が照れてしまって満足にお話しできなかった。厳しそうな人ではありませんでした。老人力をもっと長く発揮していただきたかったけど、ヤボじゃないところが、いかにも赤瀬川さんなのかもしれませんね。
(構成・大上朝美)
    −−「松尾貴史さん(タレント)と読む『超芸術トマソン』」、『朝日新聞』2014年12月14日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2014121400016.html



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