書評:ジャン=フランソワ・リオタール(松葉祥一訳)『なぜ哲学するのか?』法政大学出版局、2014年。

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ジャン=フランソワ・リオタール『なぜ哲学するのか?』法政大学出版局、読了。哲学することと実践の架橋に悩むリオタールが40歳の時、パリ第1大学で新入生に行った、哲学と欲望、哲学の起源、哲学の言葉、政治など4つの講義を収録する。リオタールによる最良の哲学入門。訳者の解説は秀逸な伝記。

リオタールの膝下で学んだ訳者・松葉祥一さんインタビュー:神戸映画資料館
「なぜ哲学するのか?」松葉祥一インタビュー | 今月の1冊|神戸映画資料館

“ポスト・モダンとは「小さな物語」が並立的に存在する世界だと考える。これはとてもよく理解できる指摘です。確かに、現代は「みんな違ってみんないい」を肯定する社会でもあるでしょう。その一方でリオタールは、実はその社会が同時に「大きな物語」への強いノスタルジーを持っていること”を指摘。

今の日本を振り返ると「みんな違ってみんないい」の実存が許容される訳でもないのに、そのフレーズだけを「みんな」が言い、相互に同じ言葉を述べることで何かを確認している。「大きな物語」への強いノスタルジーの、しかも「いびつ」な形の立ち上がり痛感する。もう一度リオタール読むべきかなあと。

例えば次のような報道もある。

「『永遠の0』の影響?軍歴照会の申請が急増」『読売新聞』2014年12月22日付。
http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20141222-OYT8T50100.html?from=tw

これなんかもそう。
人がルーツを辿る意義を全否定しようとは思わない。しかしこの空前の『永遠の0』という熱狂は、悪しき国民国家への回収であり、都合の良い物語に「酔い」自尊する臭いが強く、危惧する。

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