覚え書:「書評:革命の芸術家 C・L・R・ジェームズの肖像 ポール・ビュール 著」、『東京新聞』2014年12月21日(日)付。


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革命の芸術家 C・L・R・ジェームズの肖像 ポール・ビュール 著

2014年12月21日


◆植民地独立への信念
[評者]早尾貴紀=東京経済大准教授
 本書で描かれたC・L・R・ジェームズはディアスポラ(民族離散)を体現する思想家であった。二十世紀最初の年にカリブ海のイギリス植民地トリニダードにアフリカ系の子孫として生まれ、一九三○年代に宗主国イギリスに渡りクリケット批評で名を成す。彼は、イギリス発祥で大英帝国に広まったクリケットに植民地支配を克服するスポーツの公平性を、団体競技の中の芸術的プレーに個人の全的な解放性を見いだす。
 イギリスおよび後にアメリカ合衆国で、彼は帝国主義批判および労働者解放として共産主義運動に傾注するが、黒人解放を軽視する組織とは決別していく。黒人解放の信念は、彼をハイチ革命(フランス革命の余波で達成された初の植民地独立)研究へと向かわせ、『ブラック・ジャコバン』という記念碑的著作に結実する。五八年にトリニダードに戻ったジェームズは、個々の小さな独立国家ではなく、カリブ海域の西インド諸島連邦に尽力するも、六二年のトリニダード・トバゴ独立によって敗北する。
 だがジェームズの革命思想は冷戦終焉(しゅうえん)後のグローバル化のもと再評価され始めた。越境的な人の移動と文化変容の高まり、国民国家体制の揺らぎが、ディアスポラの知識人としての先駆性を際立たせた。時代がジェームズに追いついたことを、同志たる著者が見事に描ききった。
中井亜佐子ほか訳、こぶし書房・4320円)
 Paul Buhle 1944年生まれ。米国の政治学者。移民や女性運動を研究。
◆もう1冊 
 E・W・サイード著『故国喪失についての省察』(大橋洋一ほか訳・みすず書房)。故国を失った思想家たちを紹介。
    −−「書評:革命の芸術家 C・L・R・ジェームズの肖像 ポール・ビュール 著」、『東京新聞』2014年12月21日(日)付。

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