覚え書:「今週の本棚・新刊:『波の音が消えるまで 上・下』=沢木耕太郎・著」、『毎日新聞』2014年12月28日(日)付。
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今週の本棚・新刊:『波の音が消えるまで 上・下』=沢木耕太郎・著
毎日新聞 2014年12月28日 東京朝刊
(新潮社・各1728円)
「マカオ」「ギャンブル」と聞いたら、紀行小説の大作『深夜特急』(新潮文庫)を思い浮かべる人も多いだろう。その著者の新刊となる本書で、再びマカオとギャンブルが登場する。ギャンブルの勝敗が決まる緊迫感や駆け引きを巡る心理描写は圧巻で、読み始める前の期待を裏切らない長編小説に仕上がっている。
香港返還前日の1997年6月30日、28歳の航平が帰国途中に偶然立ち寄ったマカオで物語は始まる。「庄(ジョン)」と呼ばれるバンカーと「ケン(ハン)」と呼ばれるプレイヤーに配られるトランプのカードの合計数を競うバカラ。0から9の1桁の数字だけでやり取りする簡単なギャンブルに人々は熱中していた。緑のフェルト布が敷き詰められた台では、勝負の波が打ち寄せている。航平も当初は<ほんの少し覗(のぞ)いてみよう>とだけ思っていたが、知らぬ間に<緑色の海>にのめり込んでいく。
謎めいた登場人物たちも魅力的だ。日本語を操る中国人の娼婦(しょうふ)、中国人のふりをしてカジノでチップを奪う男。つかめそうでつかめないバカラの勝敗のように、物語を少しでも深く読み解こうと、気づけば夢中でページを繰ってしまう。(唯)
−−「今週の本棚・新刊:『波の音が消えるまで 上・下』=沢木耕太郎・著」、『毎日新聞』2014年12月28日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20141228ddm015070039000c.html