覚え書:「今週の本棚・新刊:『「恩恵の論理」と植民地』=岡田泰平・著」、『毎日新聞』2015年02月15日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『「恩恵の論理」と植民地』=岡田泰平・著

毎日新聞 2015年02月15日 東京朝刊

 (法政大学出版局・6156円)

 日本の植民地支配と侵略に対する謝罪を求める声は、中国や韓国を筆頭に、今もアジアに多い。他方、アメリカの植民地だったフィリピンでは、植民地支配に対し声を大にして否定するような言説が、あまりにも少ないらしい。その背景を当地の植民地時代の教育を軸に探った。

 アメリカは、教育を通してフィリピンに民主主義国家を担う「市民的理念」を植え付けた。いわば、その「恩恵」によりフィリピンが独立国家になれた、とされる。支配された側が旧宗主国に感謝する構図が作られてきたわけだ。他方、この教育はフィリピンの土俗性や、当時芽生えかけたナショナリズムを粉砕した。妙に革新的ではあるが、人種差別的で暴力的な面も持つ、宗主国アメリカによる「押しつけ」は、今もフィリピン社会を規定する要素のひとつであり続ける。否定すればこと足りる話ではなく、もちろん全肯定もできない。

 本書自体は研究書で抑制的な筆致だが、たとえば戦後初期の日本、あるいは米軍統治下の沖縄との比較もしたくなる。明治政府の義務教育制と沖縄を筆頭とした地方への対応なども連想した。(生)
    −−「今週の本棚・新刊:『「恩恵の論理」と植民地』=岡田泰平・著」、『毎日新聞』2015年02月15日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150215ddm015070022000c.html










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