覚え書:「今週の本棚:大竹文雄・評 『日本財政「最後の選択」』=伊藤隆敏・著」、『毎日新聞』2015年02月15日(日)付。

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今週の本棚:大竹文雄・評 『日本財政「最後の選択」』=伊藤隆敏・著

毎日新聞 2015年02月15日 東京朝刊

 (日本経済新聞出版社・1944円)
 ◇破綻回避へ増税のルール化を

 日本の財政破綻の可能性はあるのか、あるとすればいつ頃なのか、避けるためにはどうすればいいのか。誰もが答えを知りたい問題だ。日本人でもっとも多くの世界的な業績がある経済学者の一人であるコロンビア大学教授の伊藤隆敏氏がこの問いに答えたのが本書である。

 2014年の日本政府の債務残高はGDPの約2・3倍、財政赤字はGDPの約8%と先進国で最も高い。特に、債務・GDP比率は、欧州債務危機をもたらしたギリシャ、イタリア、スペインなどよりも遥(はる)かに高い。

 ギリシャよりも日本の債務・GDP比率が高いという事実は、両極端の意見をもたらす。第一は、日本の財政はいつ破綻してもおかしくない状況だという意見だ。第二は、日本よりも債務・GDP比率が低い国で債務危機になって、日本はなっていないのだから、財政破綻と債務・GDP比率は無関係であるという主張だ。

 第二の考え方と整合的な事実もある。財政破綻が近い将来日本で発生するならば、それを見越して日本の国債金利は上昇してもおかしくないが、低金利で推移している。もし、財政破綻の心配がないなら、誰もが嫌がる消費税の引き上げの必要性はないことになる。

 日本とギリシャの違いを著者は、つぎのように説明する。第一、日本には豊富な国内貯蓄があり、日本国債を買い続けてくれる国内投資家が多い。第二、日本の消費税率は欧州諸国の20−25%に比べて低く、財政再建の手段が残されている。第三、日本は独立の金融政策と通貨政策をもっている。

 しかし、国内貯蓄は今後退職者が増えていくに従って減少する可能性が高いこと、日本の金融機関も国債金利が上がり出すと一斉に売却に転じる可能性があることから、著者は今後の財政破綻の可能性を指摘する。

 財政危機が発生するとどうなるのだろうか。金利上昇で国債の借り換えが困難になると、急激な財政緊縮によって、金融システム不安、消費・投資の減少で大きな不況になり、銀行危機も発生すると著者は言う。財政危機になった時に、外国のアドバイスに頼るのは必ずしも日本人のためにならないし、外国人が国債を買ってくれるわけではない。ギリシャが取った債務の不履行は、国債が日本の金融機関に保有されていることを考えると銀行危機を発生させるだけで、日本では選択肢にならない。

 では、本当に財政破綻は来るのだろうか。来るとすればいつなのか。著者は、「国内の民間貯蓄だけでは国債残高を持ちきれなくなったとき」を財政破綻と定義して、それがいつになるかを、様々な仮定のもとで予測している。

 第一に、消費税率が当初の予定通り今年10月に10%に引き上げられて据え置かれた場合、2%成長を達成したとしても、2020年代前半に財政危機に陥る。第二に、消費税率を2020年までに15%に引き上げると、財政危機に陥るかどうかは他の条件に依存する。第三に、消費税率を20%まで引き上げると、財政危機回避がほぼ可能になる。

 財政破綻を避けるには誰もが嫌がる増税を続ける必要がある。そのためには、増税をルール化してしまうことだ。具体的には、景気がよくなれば必ず増税をする、毎年増税をする、新規国債の発行上限を設定するなどの提案がされている。

 コストをかけて総選挙で獲得した自由な2年間を有効に使って、積年の日本財政の課題を片付けてもらいたいという著者の思いに共感する。
    −−「今週の本棚:大竹文雄・評 『日本財政「最後の選択」』=伊藤隆敏・著」、『毎日新聞』2015年02月15日(日)付。

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日本財政「最後の選択」
伊藤 隆敏
日本経済新聞出版社
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