覚え書:「ゲンの叫び、中東に届け カイロ大教授、アラビア語に翻訳」、『朝日新聞』2015年02月25日(水)付。

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ゲンの叫び、中東に届け カイロ大教授、アラビア語に翻訳

2015年02月25日


 原爆のむごさ、戦争の愚かさを伝える故・中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」第1巻のアラビア語版が最近、エジプトで出版された。カイロ大文学部日本文学科教授マーヒル・エルシリビーニーさん(55)が翻訳した。「中東のいろいろな所で殺し合いが起きている。ゲンを通じて平和を呼びかけたい」と話す。

 ■絶えない戦闘「今こそ平和訴える」

 マーヒルさんは1987〜92年に広島大大学院に留学し、日本語研究で博士号を取った。当時は研究が忙しく被爆の実態を詳しく知る時間がなかった。

 カイロ大で教授になってから時間に余裕ができたので、平和の大切さを訴えている広島への恩返しのため、原爆に関する本をアラビア語に翻訳したいと考えた。友人に相談すると「はだしのゲン」と、井伏鱒二の小説「黒い雨」を薦められた。絵で理解できる「ゲン」を選んだ。「ゲン」を読んで知っている地名がたくさんあった。原爆の破壊力のすさまじさを改めて知った。

 中東では日本は戦後に経済発展を成し遂げた国として知られ、勤勉さが評価されている。だがマーヒルさんは「日本人がよく働くから経済発展したのではなく、平和だったから発展したことをアラブの人たちに知ってほしい」と話す。

 マーヒルさんは2010年に「アラブの春」が始まったころから、中東では何か良くないことが起きるのではないかと不安に思っていた。実際に「イスラム国」など過激派が台頭し、混乱が広がり、核兵器化学兵器が使われるのではないかと心配になるという。日本人の人質事件とヨルダン軍パイロットの殺害には胸を痛めた。ヨルダン軍は報復攻撃を強めている。「復讐(ふくしゅう)や報復には終わりがありません。いま中東で平和を呼びかけることが本当に必要です」

 「はだしのゲン」はこれまで、20カ国語以上で翻訳されている。アラビア語版は日本の国際交流基金の協力を得て2千部出版。マーヒルさんは「黒い雨」の翻訳にも取りかかっているという。(カイロ=翁長忠雄) 
    −−「ゲンの叫び、中東に届け カイロ大教授、アラビア語に翻訳」、『朝日新聞』2015年02月25日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11619270.html





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