覚え書:「【書く人】国を超えるつながりを『「辺境」の誇りアメリカ先住民と日本人』  亜細亜大専任講師 鎌田遵さん」、『東京新聞』2015年03月08日(日)付。

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【書く人】

国を超えるつながりを『「辺境」の誇りアメリカ先住民と日本人』  亜細亜大専任講師 鎌田 遵(じゅん)さん(42)

2015年3月8日
 
 白人に迫害されてきたアメリカ先住民。東日本大震災原発事故で故郷を奪われた福島の人たち−。似たような「辺境」に追いやられた人の声を聞き、その誇り高い生き方をつづったノンフィクションだ。
 「中央でものごとを見ることも大事ですが、辺境から中央を見ることは、得難い経験です。多数派がしていることがよく分かる。弱者や少数派の人権や生活空間、伝統をないがしろにするような国は、戦争する国になっていくのではないか。アメリカ社会を見ているとよく分かります」
 二十年以上にわたり先住民学を研究し、「辺境」を歩いてきた。四年前の大震災発生時には、客員研究員としてアメリカにいた。三週間後に帰国して以降、被災者の取材を精力的に続けてきた。先住民の居留地が核開発に利用される経緯が、貧しい地方に原発が立地する日本の姿に重なる。
 「この本を読んだ被災者が、先住民のことを知らずに申し訳なかったと話してくれた。自分は四年間苦しんでいるが、先住民は何十年、何百年も苦しんできた、と。辺境同士で国を超えたつながりができてくれば、社会は変わっていける」。本書の中で「海を守る民」として取り上げた和歌山県太地町(たいじちょう)は、貧しさのため、明治時代からアメリカに渡る移民が多かった。「彼らにとって海は、自分たちを外に連れ出す道だった。辺境には可能性がある」
 都内で避難生活を送る福島・浪江町の漁師。南相馬市にとどまる養豚業者。被災地を心配する先住民たち。話を聞いた人の写真を、本にたくさん載せた。「顔から発するエネルギーが大事なんです。先住民は絶滅したと思う人も多いので、こういう人たちがいることを知ってほしかった」
 高校時代に二カ月間、ヒッチハイクユーラシア大陸を横断した。その後、アメリカの語学学校に入り、寮で先住民と出会う。「移民国家と言っても、もとは先住民の国。彼らについて学べば、アメリカ社会が分かる」とカリフォルニア大で大学院まで進み、先住民学を専攻した。
 二〇〇四年に帰国後も毎年、現地調査を続ける。ある部族長からは、千時間も話を聞いた。「二十年以上やっても、知らない世界が広がっていくばかりです。四十年たつとどうなるか」。強い覚悟がにじんだ。
 集英社新書・八二一円。 (石井敬)
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