覚え書:「書評:「ゲニウスの地図」への旅 歩くための地誌 新井 豊美 著」、『東京新聞』2015年03月08日(日)付。

3_2

        • -

「ゲニウスの地図」への旅 歩くための地誌 新井 豊美 著

2015年3月8日

◆体験の闇を深く探る
【評者】横木徳久=文芸評論家
 二〇一二年に亡くなった詩人・批評家である新井豊美の遺稿評論集二冊が同時刊行された。生前の著者は『半島を吹く風の歌』などの詩集を刊行し、その鋭い感性と深い知性が織りなす作品は高い評価を得ている。また批評では『[女性詩]事情』など、広い歴史の中で女性詩を捉え、時代の基層から生成する詩作品を細やかに論じた。詩、批評ともに現在の女性詩人に与えた影響は計りしれない。
 評論集の一冊目『「ゲニウスの地図」への旅』には菅谷規矩雄、山本陽子吉本隆明に関する論考が収録されている。いずれも一九六〇年代から七〇年代にかけて最も輝きを放った詩人、批評家である。著者は菅谷の「無言」、山本の「心的宇宙」、吉本の「共同幻想」を丁寧に分析する。そこには著者が自称する「学童疎開世代」としての体験的な闇が濃密に投影されている。「闘争」史観で語られがちなこの時代の相に、体験の暗部が潜在していることを読み解いてゆく。
 二冊目は『歩くための地誌』と題されて、さまざまな土地を歩いて出会った詩趣を記したエッセイと十四人の詩人論が収録される。風土の記憶や名付けの行為を確かめながら歩くことが詩を書く原点であった著者の姿勢が伝わってくる。
 遺稿集というより、体験的な「闇」と書くことの原点を追究し続けた詩人の、きわめてアクチュアルな評論集である。
 (思潮社・各2916円)
 あらい・とよみ 1935〜2012年。詩人。著書『草花丘陵』『シチリア幻想行』。
◆もう1冊 
 高橋順子編著『現代日本女性詩人85』(新書館)。与謝野晶子石垣りん中島みゆきなど女性詩人の選詩と解説。
    −−「書評:「ゲニウスの地図」への旅 歩くための地誌 新井 豊美 著」、『東京新聞』2015年03月08日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015030802000193.html








Resize1556