覚え書:「書評:地球科学の開拓者たち 諏訪 兼位 著」、『東京新聞』2015年03月15日(日)付。

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地球科学の開拓者たち 諏訪 兼位 著

2015年3月15日
 
◆先学が鳴らしていた警鐘
【評者】石弘之=環境史家
 「地球科学」とは地球を研究対象とする分野の総称だ。地震の地球物理学、土砂災害の地質学、地球温暖化など身近な事象も研究領域といわれると、親しみがわく。
 今日の地球科学を築き上げてきた二十三人の研究者と外国人教師を、幕末まで遡(さかのぼ)って、その業績や果たした歴史的役割を豊富なエピソードとともに紹介する。榎本武揚(たけあき)は戊辰(ぼしん)戦争で旧幕府軍を率いて戦った有名な幕臣だったが、明治新政府では文部・外務大臣など中枢で働いた人物だ。東京地学協会などの学会や東京農業大学の前身を創立した科学者でもあった。足尾鉱毒事件の調査委員会を設置し、結局、事件の責任をとって政界を引退した。
 関東大震災は地球科学界にも衝撃をもたらした。これを機に大学の地震学科や地震研究所の創設など本格的な地震研究が開始された。このとき奔走した小川琢治京大教授はノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹の父である。過去の地震の記録から大震災の発生を警告した当時の今村明恒東大助教授は、上司の大森房吉らから浮説として攻撃されたものの、震災後は「地震の神様」と讃(たた)えられた。
 多才な科学者の寺田寅彦は、この分野のスターのひとりであろう。随筆家や俳人でもあり、「天災は忘れた頃にやってくる」など多くの名言で知られる。漱石の小説に登場する人物のモデルにもなった。当時は批判が多かった大陸移動説をいち早く取り入れ、地震・噴火を包括的に説明するプレートテクトニクス理論の道を開いた。
 最終章では、東日本大震災原発事故で出た大量の汚染土壌の処理について言及する。過去に同地域を同規模の地震津波が襲って大きな被害をもたらした研究から、先学者や国の研究機関が警鐘を鳴らしていた。だが東電は事故発生まで何ら対策をとらなかった。
 著者は地球科学分野の重鎮だが、歌人としても著名で、詠む短歌には地球科学がよく登場する。
(岩波現代全書・2484円)
 すわ・かねのり 1928年生まれ。名古屋大・日本福祉大名誉教授、地質学。
◆もう1冊
 鎌田浩毅著『マグマの地球科学』(中公新書)。地下のマグマの謎と、地上に形成される火山による気候変動などを調査、検証する。
    −−「書評:地球科学の開拓者たち 諏訪 兼位 著」、『東京新聞』2015年03月15日(日)付。

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