覚え書:「今週の本棚・本と人:『透明カメレオン』 著者・道尾秀介さん」、『毎日新聞』2015年03月22日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『透明カメレオン』 著者・道尾秀介さん
毎日新聞 2015年03月22日 東京朝刊

 (角川書店・1836円)

 ◇弱さそのものに価値がある 道尾秀介(みちお・しゅうすけ)さん

 道尾さんは、変わった。

 『背の眼(め)』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞して、2005年にデビュー。『向日葵( ひまわり )の咲かない夏』『シャドウ』などで早くから注目され、11年『月と蟹(かに)』で直木賞を射止めた。受賞まで5回連続で候補に上り、そのたびに「今回はとりますよ」と口にする“ビッグマウス”で強気の姿勢を見せつけた。しかし、少しずつ、強気とは思えない言動を取り、こちらが戸惑ったことも。本書の話を聞く中で、変化の理由が見えてきた。

 主人公は容姿に全く自信がなく、取りえは声という恭太郎。天職ともいえるラジオのパーソナリティーを務め、夜は行きつけのバーで仲間と過ごす日々だ。ある夜、一人の女性、恵がバーに迷い込んできて、彼女の父を自殺に追いやった男への復讐(ふくしゅう)を手伝わされるはめに。

 作家生活10周年記念作品と銘打ち、「この小説を読んでくれた人全員を深く感動させる」と心に秘めて取り組んだという。前半は巧みなエピソードがからみ合ってテンポよく進む快作だが、真骨頂は後半だ。一気に物語世界の密度が濃くなり、やがてそれまで見えていた光景が一変する。その度合いが今までの比ではない。

 後半は窮地に陥った恵を救うべく、バーの仲間が立ち上がる。ところが彼らはキャバクラ嬢に仏壇店店主など頼りなさそう。武器はといえばゴムで弾を飛ばすパチンコや、ネズミ捕りマットといった調子。「今まで、弱いけれど強がることに意義を見いだす人を描いてきた。今回は弱さそのものに価値があるということがテーマになった。登場人物たちは自分の弱さを認めている。認めたら他人の弱さも敏感に感じ、支えてあげることも苦もなくできてしまう」

 そう考えたのはなぜかと問えば、「根本的なところで自分が弱いから」。「これを書くまで、『そうじゃない』と虚勢を張ることでエンジンをかけてきた」と明かす。「作家としてやっていけるとようやく信じられるようになり、弱さを認めることの大事さを書けるようになった」。10年かかってよろいを脱ぎ、穏やかに笑う。が、この作家のことだ。それだけで済むわけがない。<文・内藤麻里子 写真・竹内幹>
    −−「今週の本棚・本と人:『透明カメレオン』 著者・道尾秀介さん」、『毎日新聞』2015年03月22日(日)付。

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