覚え書:「今週の本棚・新刊:『<報道写真>と戦争 一九三〇−一九六〇』=白山眞理・著」、『毎日新聞』2015年04月05日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『<報道写真>と戦争 一九三〇−一九六〇』=白山眞理・著
毎日新聞 2015年04月05日 東京朝刊

 (吉川弘文館・5184円)

 戦争の世紀を考える際、戦後世代だからこそあつれきなく踏み込める課題がある。1958年生まれの著者が、30〜60年代の報道写真に焦点を当てた本書は、戦争と写真家の関係を考えるうえで画期的な内容だ。

 キーパーソンは、日本の報道写真の先駆者、名取洋之助だ。彼が結成した制作集団「日本工房」は34年、日本文化を外国語で紹介するグラフ誌『NIPPON』を創刊。木村伊兵衛土門拳もかかわった。

 同誌は、読者を意識した「報道写真」から、日中戦争後は内閣情報部や軍が主導する「対外宣伝写真」へと変化を余儀なくされた。おおむね知られている事実だが、公文書を丁寧にひもといた記述が生々しい。

 本書の白眉(はくび)は、「宣伝写真」にかかわった写真家の、<戦後>を考察した後半だ。画家の藤田嗣治(つぐはる)のように「協力」を露骨に非難された写真家はいなかった。著者は「おわりに」で<各々がそれぞれに発言し、あるいは、口をとざして、基本的事実の共通認識さえなかった>と書く。戦争責任を追及するのが目的ではない。今は、何が起こり、見過ごされてきたかを冷静に考える時機である。そのための貴重な一冊だ。(け)
    −−「今週の本棚・新刊:『<報道写真>と戦争 一九三〇−一九六〇』=白山眞理・著」、『毎日新聞』2015年04月05日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20150405ddm015070087000c.html



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〈報道写真〉と戦争: 1930-1960
白山 眞理
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