覚え書:「著者に会いたい:闇より黒い光のうたを 河津聖恵さん [文]白石明彦」、『朝日新聞』2015年04月05日(日)付。
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著者に会いたい
闇より黒い光のうたを 河津聖恵さん
[文]白石明彦 [掲載]2015年04月05日
(写真キャプション)河津聖恵さん=白石明彦撮影
■15人の「詩獣」の生をたどる
15人の詩人が登場するこの詩人論集の副題は「十五人の詩獣たち」。たとえば、治安維持法違反で終戦の半年前に獄死した朝鮮の詩人尹東柱(ユンドンジュ)のなかに、河津さんは、傷ついても誇り高く天を仰ぐ高貴な獣を見る。
「すぐれた詩人とは、世界に対して本能的な危機意識をもつ獣のような存在です。その詩には、深く傷ついた者のうめきがひそんでいます」
ほかに、自死したパウル・ツェランや銃殺されたガルシア・ロルカ、夭折(ようせつ)した立原道造らの詩と生が、緊密な文体でつづられている。
東京の高校時代に鬱屈(うっくつ)を吐きだすように詩を書きはじめた。京都大学で学んで以来、京都暮らしが長い。2003年にはH氏賞を受ける。
だが翌年に大病を患ってから数年間、生の危うさに絶望し、詩は書けなかった。そんなとき、尹東柱の詩を知り、ひたすら書き写して、「これで耐えられる」と思った。彼に捧げた詩に〈この冬 春の幻のようにあなたをふかく知った〉とある。
河津さんもまた詩獣なのだろう。
京都で2月にあった尹東柱没後70年の式典で、韓国の詩人高銀(コウン)さんのこんな言葉が心に残ったという。「詩と詩人は切りはなせない。尹東柱は彼の詩以上に詩であり、尹東柱の詩は彼以上に詩人であった」
「私が確信している詩と詩人の関係の豊かさを、みごとに表現してくれたから。最近は詩と詩人を切りはなし、詩をテキストだけで論じる風潮がありますが、私は違います」
本のエピローグは、〈経済性や効率性に偏重していくばかりの世に、詩という無償を突きつけるものを書きたい〉と結ばれる。
志の人である。
◇
藤原書店・2700円
−−「著者に会いたい:闇より黒い光のうたを 河津聖恵さん [文]白石明彦」、『朝日新聞』2015年04月05日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2015040800002.html