覚え書:「戦後70年:戦後の歩み、どう評価 朝日新聞・日独世論調査」、『朝日新聞』2015年04月18日(土)付。

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戦後70年:戦後の歩み、どう評価 朝日新聞・日独世論調査
2015年04月18日

〈1〉これからの日本・ドイツは今より…/〈2〉ヘイトスピーチに関心が…/〈3〉戦後の社会、どう変わった?/〈4〉戦後日本を代表する人物は…/〈5〉この戦争のイメージに影響を与えた映画や本などで、最も印象に残っているのは…
 (18面から続く)

 ■愛国心 「ある」日本83%、独67%

 日独でそれぞれ愛国心がどの程度あるか尋ねたところ、日本では「大いにある」「ある程度ある」を合わせた「ある」は83%と大半を占めた。「ない」は「ほとんど」「全く」を合わせて16%にとどまった。調査方法が異なるので単純に比較はできないが、2006年12月の調査(面接)で同じ質問をした時は「ある」78%、「ない」20%で、傾向はあまり変わっていないとみられる。

 一方、ドイツでは今回、「ある」は67%で、「ない」は30%だった。これも調査方法が異なるものの、「ある」と「ない」の差は日本より少ないといえる。

 愛国心は学校で教えるべきものか、という質問について、日本では「教えるべきものだ」が43%(06年12月の調査では50%)、「そうは思わない」は50%(同41%)で、大きな差はない。これに対し、ドイツでは「教えるべきものだ」は35%で、「そうは思わない」の60%が引き離している。

 仮に外国の軍隊が攻めてきたら……という質問では、日独で大きな違いが出た。日本では「戦う」31%(同33%)、「逃げる」35%(同32%)がほぼ並び、「降参する」は15%(同22%)だった。ところが、ドイツでは「戦う」が52%と半数を超え、「逃げる」23%、「降参する」12%だった。

 日独ともに男女差があり、日本では、「戦う」は男性45%、女性19%。ドイツでは男性61%、女性44%だった。年代別では、日本で「戦う」は20代が最少の19%で、年代が上がると増え、60代以上では4割近くになる。一方、ドイツでは60代以下は各年代とも「戦う」は5割台で、70歳以上は36%に減る。

 ■将来 「よくなる」独34%、日13%

 戦後70年の日独両国の歩みを両国民はどのように見ているのか。日本では「よかった」は22%で、「どちらかと言えばよかった」は63%。ドイツでは「よかった」は47%で、「どちらかと言えばよかった」は40%だった。両国民とも肯定的にとらえている人が8割を超えるが、ドイツの方がその気持ちが強いようだ。

 今後の見通しもドイツの方が明るい。これからのドイツは「よくなる」は34%で、「悪くなる」の23%を上回る。これに対し、日本は「よくなる」は13%で、「悪くなる」の34%の方が多い(グラフ〈1〉)。日本では06年12月の調査でも「よくなる」9%、「悪くなる」31%で、傾向は変わっていない。

 一方で、将来、自国を巻き込んだ大きな戦争が起こる可能性を聞くと、日本では「大いに」「ある程度」を合わせて「ある」は50%だったのに対し、ドイツは62%と多かった。これからのドイツは「よくなる」と答えた人でも51%が、「悪くなる」と答えた人では79%が、戦争の可能性が「ある」を選んでいる。

 日本で、今の社会に民主主義は根を下ろしていると思うか聞いたところ、「根を下ろしていると思う」は62%で、「そうは思わない」は32%だった。1971年12月の調査(面接)で同じ質問をした時は「根を下ろしている」41%、「そうは思わない」35%で、94年12月の調査(面接)では54%対35%だった。40年以上前、20年以上前に比べて、「根を下ろしている」という人が増えてきているものの、「そうは思わない」という人も安定して3割以上いる。

 ■ヘイトスピーチ 「問題ある」73%

 日独で、国内に住む外国人や他民族を見下すような風潮がどの程度あると思うか聞いたところ、日本では「大いに」「ある程度」を合わせた「ある」は45%で、「ない」は「あまり」「全く」を合わせて51%だった。これに対し、ドイツでは「ある」は計74%で、「ない」の計23%を大きく上回った。

 一方、日本で、在日韓国・朝鮮人に対する差別を見聞きしたことが「ある」と答えた人は39%いた。ネット上で差別的な書き込みなどを見たことが「ある」という人は25%。ネットを利用する機会の多い20〜30代では、「ある」という人が50%だった。

 日本では、在日韓国・朝鮮人に対し、差別や憎悪をあおる「ヘイトスピーチ」が起きている。このヘイトスピーチはどの程度問題だと思うか、尋ねると、「大いに」の30%と「ある程度」の43%と合わせて73%が「問題だ」と答えた。「問題ではない」は「あまり」の16%、「全く」の2%を合わせて18%だった。

 「問題だ」と考える人が多数とはいえ、関心の有無による温度差は大きい。

 「関心がある」という人(計35%)の中では「大いに問題だ」が51%で、「ある程度問題だ」の42%と合わせると、圧倒的多数の93%が「問題だ」と答えた(グラフ〈2〉)。「問題ではない」は「あまり」「全く」を合わせてわずか6%だった。

 これに対し、「関心がない」人(計61%)では、「大いに」の19%、「ある程度」の46%を合わせて「問題だ」を選んだのは65%。「問題ではない」は計27%にのぼった。

 ■靖国神社 首相参拝「賛成」56%

 首相が靖国神社を参拝することについて、日本で賛否を尋ねたところ、「賛成」は56%で、「反対」の26%を上回った。9年前の06年4月の調査(面接)では「賛成」50%、「反対」31%だった。

 安倍首相が実際に13年12月に参拝した翌月の調査(電話)では「参拝したことはよかった」は41%で、「参拝するべきではなかった」の46%の方がやや多かったが、首相の参拝直後でない時に、一般論として参拝の賛否を聞くと、「賛成」が「反対」を上回る。

 今回の調査で、靖国神社A級戦犯もまつられていることを「知っている」と答えた人は78%で、「知らない」の19%を大きく上回った。「知っている」人も「知らない」人も、ともに6割近くが、首相の靖国参拝に「賛成」と答えた。日本がおこなった戦争について「自衛戦争だった」と答えた人(6%)では、首相の靖国参拝に「賛成」が8割を超えたが、「侵略戦争だった」という人(30%)でも、賛否は46%対43%と二分された。

 一方、中国や韓国が安倍首相の靖国参拝を批判していることについて、政府は「重く受け止めるべきだ」と答えた人は31%で、「それほどのことではない」の55%の方が多かった。06年4月の調査で「小泉首相」の参拝について同様の質問をした時は「重く受け止めるべきだ」は41%で、「それほどのことではない」は51%。今回の方が「重く受け止めるべきだ」は少なかった。

 ■生活の便利さ 都市部で高い評価

 戦後70年で日本社会や日本人はどう変わったか。日本で、10項目について「変わらない」を3とし、1〜5の5段階評価をしてもらったところ、平均が最も高かったのは「生活の便利さ」で、4・53だった(グラフ〈3〉)。東京23区や政令指定市に住む人では4・58なのに対し、町村に住む人では4・43と低めだった。次は「女性の地位」で、3・92。男女差があり、男性4・00、女性3・84だった。

 最も評価が低かったのは「経済的な格差」の2・35。働いている人の中では、非正規雇用の人が2・12と低かった。「老後の安心」は2・76で、世帯年収で見ると、200万円未満の人が2・60で、それ以上の収入の人は2・70を超えている。「子どもが育つ環境」は2・89で、子育て世代にあたる30代の男女、40〜60代の女性が2・80以下になっている。

 ■戦後日本を代表 1位は田中角栄

 戦後の日本を代表すると思う人物を、日本で3人まで自由に挙げてもらったところ、上位4人は元首相が並んだ(グラフ〈4〉)。

 1位は田中角栄で、回答者の3割を超える640人が選んだ。特に50代男性では半数以上が挙げた。2位の吉田茂は70歳以上の男性の5割が、3位の小泉純一郎は20代男女の2割が選んだ。4位は佐藤栄作で、首相経験者では、池田勇人が12位、中曽根康弘が13位。現職の安倍晋三は14位で、岸信介が16位だった。

 経済界からは2人の創業者、松下幸之助が5位、本田宗一郎が9位に入った。

 6位は美空ひばりで、60代以上の女性の1割が選んだ。7位の長嶋茂雄は、40〜50代男性の1割が挙げた。大リーグで活躍中のイチローは11位だったが、40代以下の若い層に限ると、5位だった。(敬称略)

 ■戦争の印象 「はだしのゲン」9%

 先の戦争のイメージは、主に何から影響を受けたか、日本で三つまで挙げてもらったところ、「テレビ」68%、「映画」42%、「新聞」36%、「本」32%、「漫画」9%、「雑誌」8%、「インターネット」4%の順になった。「新聞」は60代以上の5割前後が、「漫画」は20〜30代の2割が選んだ。「ネット」は20代男性の21%が挙げたのが目を引いた。

 最も印象に残った作品のタイトルを挙げてもらうと、「はだしのゲン」が1位で、9%にあたる173人が選んだ(グラフ〈5〉)。20〜40代の男性では、2割前後が挙げた。

 2位の「火垂(ほた)るの墓」は30〜40代の女性では最多で、2割近くが選んだ。3位の「永遠の0」は20代女性では最多で、6人に1人が挙げた。「ひめゆりの塔」「ビルマの竪琴」を選んだ人は70歳以上が多かった。

 ◇この特集は、石本登志男、斎藤恭之、松井健、松井夕梨花、松下秀雄、山田雄介が担当しました。
    −−「戦後70年:戦後の歩み、どう評価 朝日新聞・日独世論調査」、『朝日新聞』2015年04月18日(土)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S11710777.html





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