拙文:「読書:中田整一『ドクター・ハック』平凡社 戦中、日米間の和平工作に奔走」、『聖教新聞』2015年04月25日(土)付。
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読書
ドクター・ハック
中田整一 著
戦中、日米間の和平工作に奔走
戦前・戦中日本の行く末を決定付ける局面に必ずその姿を現わすのが、ドイツ人エージェント、ドクター・ハックことフリードリヒ・ハックだ。
女優・原節子のデビュー作となる日独合作映画「新しき土」を世に送り出し、その延長線上に日独防共協定締結への筋道を付けた武器商人。元々、ナチスに懐疑的だったもののゲシュタポに逮捕され、スイスへ亡命し反ナチスに転じる。以後、日本とナチスを結びつけた十字架の贖いとして、日米間の和平工作に奔走する……。
これまで、ハックの人となりは、個々の強烈なエピソードばかりに目が向いたが、本書はその点と点、線と線を結び、彼の人間像と時代の舞台裏を明らかにする。
ハックの和平交渉が功を奏していれば、日本は最悪の悲劇を免れたかもしれないが、戦争末期の軍人・官僚の思考停止はハックの交渉を黙殺。それは、政治学者の丸山眞男が敗戦後、発表した論文で説いた「無責任の体系」の産物であった。
そうした体質が、今なお形を変えて続いていることに暗澹としてしまうが、その暗澹さと正面から向き合わない限り、責任を引き受け、歴史を透徹する眼を磨くことは不可能であろう。
記憶の断絶は、歴史の歪曲を招来することに通ずる。ドクター・ハックの軌跡を知ることは、安易な戦前回帰や狭隘な国家主義の風潮に流されない“正視眼”を養う機会となるに違いない。「戦後70年」の本年にこそ一読したい良書だ。(氏)
●平凡社・1836円
−−「読書:中田整一『ドクター・ハック』平凡社 戦中、日米間の和平工作に奔走」、『聖教新聞』2015年04月25日(土)付。
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