覚え書:「書評:大和屋物語 神崎 宣武 著」、『東京新聞』2015年04月19日(日)付。
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大和屋物語 神崎 宣武 著
2015年4月19日
◆色街流のおもてなし
【評者】下川耿史=風俗研究家
大阪ミナミの花街で最後の大茶屋として知られた大和屋が店を閉じたのは二〇〇三(平成十五)年十月、それは大阪における「おもてなし」文化の終焉(しゅうえん)といわれた。本書は、著名な民俗学者による大和屋女将の聞き書きである。
その特徴は二つある。まずは巻頭にある季節季節の食事の写真。夏の前菜は大きめの皿の上に細竹で編んだ井桁(いげた)が置かれ、朝顔の葉やつるが巻き付けられている。その合間に前菜の小皿がのっている仕組み。また冬の造りは皿の上に作られた雪囲いの中に伊勢エビと針ピーマンが盛られているなど、ほんの数枚の写真から、おもてなしの真髄(しんずい)が伝わってくる。
次なる特徴はミナミの歴史。江戸時代のミナミは日本最大級の色街だった。そこには公許の新町遊郭のほかに一見茶屋、おやま茶屋などが群がり、いかがわしさにあふれる場所だったが、その中に格式を誇る料理茶屋も混在していた。
いかにも大阪らしい猥雑(わいざつ)な地に大和屋が開店したのは一八七七(明治十)年。三代目の阪口祐三郎(すけさぶろう)は礼儀作法から踊りなども一流の芸者を育てるため自費で芸者学校を設立し、料理も仕出屋の弁当をやめて調理人を育成した。日本舞踊家の武原はんもこの芸者学校から育った一人。作家の司馬〓太郎は、猥雑な中での格式高いもてなしこそ「客をマレビトとして神聖視する神事」と呼んだという。
(岩波書店・2592円)
かんざき・のりたけ 1944年生まれ。民俗学者。著書『江戸の旅文化』など。
◆もう1冊
岩下尚史著『芸者論』(文春文庫)。東京の花柳界を舞台に、古代から現代まで宴(うたげ)の花であり続けた芸者の文化を紹介。
−−「書評:大和屋物語 神崎 宣武 著」、『東京新聞』2015年04月19日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2015041902000190.html