覚え書:「地方消滅? 森健さんが選ぶ本 [文]森健(ジャーナリスト)」、『朝日新聞』2015年04月19日(日)付。


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地方消滅? 森健さんが選ぶ本
[文]森健(ジャーナリスト)  [掲載]2015年04月19日


■動けば未来は変えられる
 発端は一昨年末と昨年の月刊「中央公論」だ。元総務相増田寛也氏らが国立社会保障・人口問題研究所(社人研)のデータをもとに各市町村の将来を推計。2040年には人口が急減し、消滅の可能性がある自治体が896あると報じた。これら「増田レポート」をもとに昨夏出たのが増田寛也編著『地方消滅』(中公新書・886円)だ。
 人口減少本の中で増田レポートが新しかった点は三つある。
 (1)人口を自治体別に推計し、各自治体での出産可能年齢の女性の数から人口の再生産力を推計したこと。(2)地方から都市圏への人口移動が起こり、ある時から加速的に人口減少が進むと指摘したこと。(3)東京一極集中にしない対策として、地方中核都市に人を留(とど)める仕組みをつくる選択と集中を提言したこと。説得力は強力で、多くの地方関係者を慌てさせた。

■考えにくい反転
 同書に批判的な立場の書籍も昨秋から相次いで刊行された。
 増田レポートが提示した一つの解決策「選択と集中」を批判したのは山下祐介『地方消滅の罠』(ちくま新書・972円)で、農山村の地域づくりの事例を紹介したり、農山村の人口は実はあまり減っていない実態を伝えたのが小田切徳美『農山村は消滅しない』。補助金など財源問題から消滅問題を検討したのは、高寄昇三『「地方創生」で地方消滅は阻止できるか』(公人の友社・2592円)である。
 いずれも独自の視点や各地の取り組み、実態を提示した点で意義はある。ただし、各書が増田レポートの論点を崩せているわけでもない。純粋な人口論に立ち返ると、地方での急激な反転趨勢(すうせい)は考えにくいからだ。
 都市から中山間地域に移住した若者というケースは、筆者もたびたび取材したことがある。
 大阪から高知の中山間地域に出て有機農法に取り組んでいた若者。愛知から北海道に憧れて移住した男性。どちらも自分の理想とする農村生活を楽しんでいたが、農業収入は前者が年50万円、後者は年百数十万円で、副業は欠かせない状況だった。また、両者とも土地の移住者としては稀有(けう)な存在だった。
 一方、多くの若者が戻っている地域もある。レタス農家で名高く、農業収入平均2500万円という長野県川上村。社人研の推計で40年に日本で6番目に生産年齢人口比率が高い自治体だ。訪れると、子ども3人世帯が珍しくなく、耕作放棄地はゼロ、村外で配偶者を見つけるのも難しくないという話だった。

■根幹は雇用問題
 要は、地方から人が減る問題の根幹は雇用や仕事にある。仕事があって生活が安定するところなら、男性も女性も集まる。古代、川沿いに集落ができたのと変わらない仕組みだ。増田レポートで若年女性人口増加率最高とされた石川県川北町は、企業誘致の成功が人口増加の鍵だった。そうした自治体事例はルポの多く載る『全論点 人口急減と自治体消滅』で確認できる。
 ただ、これからの社会では雇用を増やすのも簡単ではない。冨山和彦『なぜローカル経済から日本は甦るのか』では、いまの地方関係者が認識すべき集約化の視点が提示される。同書で冨山氏は、現在限界集落になっている集落の多くは戦後につくられたとも指摘する。「やや人工的な理由で生まれた限界集落が、自然な状況に戻ろうとしているとも考えられる」
 動いてすぐに解決する問題ではないが、動けば未来は変えられる。その視点だけはすべての本に共通している。
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もり・けん ジャーナリスト 68年生まれ。『「つなみ」の子どもたち』など。
    −−「地方消滅? 森健さんが選ぶ本 [文]森健(ジャーナリスト)」、『朝日新聞』2015年04月19日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2015041900001.html



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