覚え書:「『こんな国に』理念を形に 木村草太さん×内山奈月さん 憲法を学ぼう」、『朝日新聞』2015年05月03日(日)付。
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「こんな国に」理念を形に 木村草太さん×内山奈月さん 憲法を学ぼう
2015年05月03日
(写真キャプション)木村草太さんと内山奈月さん=川村直子撮影
日本国憲法の施行から68年。でも、ふだんの暮らしで、私たちが憲法を実感することはあまりない。憲法全文の暗唱という特技をもつ、AKB48メンバーの内山奈月さんが、憲法学者の木村草太さんと一緒に「そもそも憲法はなぜ作られたのか」から考えた。
■憲法を立てる
木村草太 まず、憲法とは何かという話から始めましょう。内山さんは憲法学者の南野森・九州大教授と「憲法主義」という本を出されましたよね。憲法主義を英語に訳すと?
内山奈月 constitutionalism
木村 そう。日本では普通、「立憲主義」って訳します。なぜそう訳すようになったのでしょうね?
内山 みんなで憲法を作ろうという思いが込められているんでしょうか。
木村 では、憲法を作るとは、どういうことでしょうか。国の憲法に限らず、どんな団体にもルールはありますね。AKBは?
内山 AKBメンバーになる時に契約書を交わします。
木村 なるほど。でもルールは文章になっているものだけではありません。AKBにも文章になってないルールがありますよね?
内山 たくさんあります!
木村 日本国憲法の場合もそうです。例えば第1章の「天皇」の規定には、そもそも天皇家とはどんな家の人なのかとかは……。
内山 書いてないです。
木村 ですから、日本の歴史や制度を何も知らない人が読んだら、天皇家とは何か分からない。知っている人は分かる。このように憲法典に書かれていないルールはたくさんあります。
内山 AKBでも(真ん中で歌う)センターの決め方なんかは文章になっていません。「総選挙」やじゃんけんのほか、(総合プロデューサーの)秋元康先生が決めることもあります。
木村 明治国家のルールも、当初は書かれていないことがたくさんありました。そこで憲法典を作り、新国家のルールを明確な形で作ろうとした。明治国家は憲法を作って、何をしようとしたのでしょう?
内山 国会を作る?
木村 そうです。帝国憲法の制定≒帝国議会の設置でした。憲法はただあるものではなく、議会政治の理念を実現するために自分たちで「立てる」ものだ。そう考えたから「立憲主義」という言葉が採用されたのでしょう。では内山さんが、今の日本で実現したい理念って何ですか。
内山 経済成長すれば就職が決まりやすいとか、明るい世の中になるとか。
木村 内山さんは大学生で、AKBでも活動している。AKBは経済活動でもあるので、歌ったり踊ったりする時間が長くなれば、経済が成長する。でも大学生の活動は大変になる。じゃあ、どんなルールがあればいいと思う?
内山 大学の授業がもっと夜遅くまであったらとか、希望に合わせた時間割を組めるとか。でも、これじゃあ個人的な希望ですね。
木村 いや、そこが大事です。例えば、大学に通いながら経済活動ができる人を増やしたい。その理念を実現するルールを考えるわけですね。ところで、いきなり条文を考えましたか?
内山 いいえ。
木村 そうですよね。こういう国にしたいと考えて、理念が生まれ、その理念を実現するために何が必要かという順番で考えたと思います。まずは自分たちがどうしたいのか。理念を定めて、そのための条文を作る。それが憲法を立てるための手順です。
■決定どちらが
木村 そもそも議会の仕事は何だと思います?
内山 立法すること。憲法で決まっていないルールを法律をつくって決める。
木村 でも、議会で何でもかんでも決めるわけではないですよね?
内山 確かに、誰を事務次官にするとか、予算の範囲でどの蛍光ペンを買うとか、わざわざ法律で決めたりはしませんね。
木村 そうです。法律で決めないこともたくさんあります。でも逆に、内閣が何でも決めてしまってよいのでしょうか?
内山 議会の意味がなくなりますね。
木村 だから内閣が決めることと、国会が法律で決めることを「切り分ける」のが憲法の大事な役割になる。例えば、自衛隊が外国の軍隊の活動を手伝うときに国会の事前承認が必要、という話がありますね。
内山 朝日新聞に載っていましたね。
木村 もし国会の承認がいらないなら、誰の判断で自衛隊を派遣するのかな?
内山 担当の大臣?
木村 内閣の判断になります。ただ、とても大事な事柄だから議会が決めるべきで、内閣の一存で決めるのは憲法違反という主張も有力なのです。沖縄の米軍普天間飛行場を県内の辺野古に移すかどうかも議論になっていますが、移設先を決めたのは法律ではなく、鳩山内閣の閣議決定でした。この問題でも「移設先は法律で決めるべきだ」という意見が国会で出た。この綱引きは、とても大事な憲法論争です。
内山 誰を大臣にするかは、内閣がやりやすいように決めればいい。でも、国民の方針を決めていくような法案は国会で議論したほうがいいと思います。
木村 そういう考えが基本ですね。ここで、内閣と国会の会議体としての特徴を考えてみましょう。まず一般論として会議体のメンバーはどんな人がいい?
内山 いろんな考えの人が集まる方がいい。でも内閣は首相が大臣を選んでいるから、同じような考えの人たちになっているのでは。
木村 そうですね。内閣は首相の強いリーダーシップが効き、意見がまとまりやすい会議体。一方、国会は何百人もの人が意見交換して決めるので、意思統一に時間がかかる会議体です。国会と内閣のどちらで決めるかは、それぞれの特徴を考えて割り振るわけですね。
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きむら・そうた 憲法学者 1980年生まれ。首都大学東京准教授(憲法学)。東大法学部卒。著書に「憲法の急所」「憲法の創造力」など。テレビ朝日「報道ステーション」のコメンテーターも務める。
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うちやま・なつき AKB48 1995年生まれ。アイドルグループ・AKB48のメンバー。慶応大経済学部2年。日本国憲法を暗唱できるのが特技で、九州大の南野森(しげる)教授との共著「憲法主義」も話題になった。
<自衛隊派遣の国会承認>
自衛隊を出動させたり海外派遣したりする際は、内閣が判断し、国会の事前承認が原則として必要となる。テロ対策特別措置法で自衛艦をインド洋に派遣していた2007年には、派遣延長が国会で認められず、いったん引き返したこともある。新たな安全保障関連法案の与党協議では、派遣時の事前承認について、国会の閉会時などでは「例外」として事後承認を認めるかが議論になった。
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を同県名護市辺野古に移設する計画については、政府と沖縄県が対立を続けている。沖縄防衛局は昨年8月、辺野古の埋め立て予定地で海底のボーリング調査に着手。これに対し、沖縄県の翁長雄志知事は今年3月、移設関連作業の停止を同局に指示した。4月17日の安倍晋三首相と翁長氏の会談でも双方が譲らず、意見交換は平行線で終わった。
<同性婚>
海外では同性婚を法的に認める国が増えているが、日本では認められていない。同性カップルは配偶者控除のような税優遇や相続権を得ることができない。
パートナーが入院しても家族として認められず面会を断られる例もあり、憲法13条の「幸福追求権」や14条の「法の下の平等」に反するとの批判が出ている。東京都渋谷区は4月、同性カップルに「パートナーシップ証明書」を発行する全国初の条例を施行した。
安倍晋三首相は2月の国会答弁で「現行憲法の下では、同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されていない。憲法改正を検討すべきかは、家族のあり方の根幹に関わる問題で、極めて慎重な検討を要する」との見解を示した。
憲法24条を巡っては、同性婚を禁止する趣旨ではないとの解釈が一般的だが、同性婚の法制化については慎重論も根強い。
〈+d〉デジタル版に動画
(17面に続く)
−−「『こんな国に』理念を形に 木村草太さん×内山奈月さん 憲法を学ぼう」、『朝日新聞』2015年05月03日(日)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S11736647.html